これが日常
右近と瑠兎維
「るーいさん!!」
「あ、ウコンくん。どうしたの?」
優しげな表情を見せるルウイは、走って自分の元までやってきたウコンを見て、ふわりと花が綻ぶかのように微笑みかけた。その笑顔を見て、ウコンは頬から流れた汗を拭くことも忘れ、硬直した。時間が止まったとはこのことを言うのだろう。だが、その時間も次第に動き始めていき、彼の頬は徐々に熱を上げていった。
ルウイその様子を見て、ふと小さく首を傾げた。
「大丈夫?顔、赤いけど」
「あ…!へ、平気です!!これくらい、全然、どうってことないんで!」
「そう?あんまり無理しちゃだめだからね。それで、何か用があったの?急いでたけど」
亜麻色の髪を揺らしてそう尋ねる瑠兎維に見とれて早数分。彼女はさすがにどうしたのだろうと、ウコンの顔を覗き込む。彼は、目を開けたまま失神していた。その様子を見て小さく笑い、彼の瞼をゆっくりと下ろさせて、廊下の床に座らせる。
「サコン、いるんでしょ」
右近の前に座ってそう問いかけるルウイに、意識を失っているはずのウコンがにやりと妖しく口許を歪めた。ルウイは、彼をサコンと呼んだ。
「気付くの早ぇっての」
「ふふ、よく言うね。ウコンのこと気絶させたくせに」
「こいつの心臓どうなってっか知ってんのか?どっくんどっくんうるせぇんだぜ?」
「知らないよ。それはウコンとサコンだけが知ってることなんだから」
「ほーぅ…んで、ウコンの想いを知ったところで、自分は知らん振りってか。いやーな女」
「……好きなだけ言えばいいよ」
ルウイは呟くような細い声でそう言うと、立ち上がって踵を返し、サコンに背を向けた。その背中に、わざとらしく大きな声で彼は口を開いた。
「心底惚れた男を串刺しにするような女だもんなぁ…」
そう言ったサコンに、ルウイは足を止めて、これもまたわざとらしく大きな声で言った。
「関係を持った女性全員を扼殺することに快感を持った人だものねぇ…サコンは」
柔らかなその姿に似合わない、敵意に満ちた鋭い視線を左近へ送ると、彼女は足早にその場から去って行った。それを、ただ1人残された左近が呟く。
「逃げたって、責からは逃れられねぇってのによぉ…」