これが日常
雪唖と肆季
「おかえりシキ!」
「ん、ただいま」
ぽんっと頭を撫でられたセツアは、嬉しそうに肩を上げる。それを見て笑うシキは、頭に被っていた黒いハットを帽子掛けに掛けた。
「今日はどんなだったん?」
「どんな…か。あ、そういえば綺麗な蝶を見つけたよ」
彼はそう言って、1つの写真を見せた。黒い翅を基調として、規則的に薄い青緑色の斑が広がっている、なんとも神秘的で美しい蝶だった。その写真を手に取ってじっと見ていたセツアは、口角が上がるのを抑えているような表情になった。
「これ、なんていう蝶?」
「これは、アオスジアゲハ…だと思う」
「アオスジアゲハ」
オウム返しするようにそう呟いて、セツアはもう一度写真の蝶を見た。何度見ても、美しい翅の色をしている。セツアは嬉しそうに写真をじぃっと凝視し続けている。その様子を、シキは優しげな表情を浮かべながら見ている。さながら弟を見ている気分なのだろう。
「こっち側にはいない蝶だったから持って来ようと思ったんだけど、雄しか見当たらなくてさ…ごめんな」
「ううん、いいよ別に。写真、これって貰ってもいいかな」
「もちろん」
シキはセツアが嬉しそうに部屋へと戻る後ろ姿を見ながら、小さく溜息をついた。
セツアはよく旅帰りの自分に写真をねだる。もちろんそれ自体はなんの問題もないし、むしろ嬉しいことなのだが、彼の部屋がまた恐ろしい。というより、おぞましい、だろうか。部屋の壁一面に虫の写真を画鋲で貼り付けている。床は外した写真と玩具で埋め尽くされている。
純粋すぎて怖い、という思いが自身の体から抜けない。
(…まぁ、俺も大概か…)
持っていた黒い布がかかった籠を下ろして、それをパッととる。中に入っていたのは轢死した猫の遺骸と、同じ犬の遺骸。籠を持ち上げて、まだ生ぬるいそれを見て小さく笑う。
「どうせ、今回も巧くはいかないだろうけど」
止めることができない、この狂った所業。