これが日常
翼兎と陰緒
「あんだけハルー、ハルーって言ってた紫皇が?おかしくねーか」
「いやだって俺聞いたんだよ、しっきーって言ってるとこ」
「しっきーって、シキだろ?あんなやさぐれムッツリに今更?」
「いやー、なんか知らないけど…はにかんだ笑顔にハートを撃ち抜かれたってほざいてた」
「あんなムッツリより俺の方が断然イイ男だろ!?」
「…ごめん、ヨクト。俺、お前よりシキが好き」
「え、マジで?」
「うん」
もっさりヘアーのヨクトはまるで漫画のように床に膝をつき、項垂れた。パッとスポットライトが彼を照らし、それを冷めた視線で見つめるイオ。自身の足の前にある白い頭を今にも蹴り飛ばしそうな表情だ。現に、彼の足はヨクトの頭のすぐ前にある。しかし、彼は俯き、自身の存在価値について頭の中で延々と考察しているため、それには気付かない。
頭が羽毛のようにもふもふしている彼の髪を、膝で何度も触れる。羊の遺伝子が入っているのではないかと思ってしまうほど、肌触りがいい。
「いつまでそうしてんだよ…さっさと起きろよ」
「…俺、死んだ方がいいのかな…」
「死んでもいいと思うけど」
「俺、ちょっと投身自殺してくる…」
そう言って立ち上がったヨクトの背中を見て、目を見開くイオ。歩き始めた彼の腕を取ると、不機嫌そうな表情を見せていた。
「…イオ、俺の心配を…」
「バッカ!!死ぬならコンクリ詰めだろ!!」
「え」
「投身自殺とか、お前…死ぬ側はそれでいいかもしれねぇけどなぁ、片付ける方の身になれよ!!脳味噌ぐちゃぐちゃで血飛沫が舞った遺体を誰が片付けたいと思う!?とち狂った奴以外いねぇだろうが!死ぬならコンクリ!あー…けどぶっちゃけ死ぬために使う金がもったいねぇから風呂で溺死でもしてろ。あー、いや、もしくは生き埋め。そうすれば葬儀の手間が省けるな…よし、ヨクト。俺が手伝うから埋まれ」
真顔でそう言い切ったイオに、ヨクトは呟くように言った。
「悪ィ、冗談」