グリーンゼリー
入院している母の見舞いに三人の子供たちは出かけた。見送った小生は家で仕事をしなければならず、午前中は勤め先に提出する報告書と格闘した。午前十一時五十三分から数分間ラジオの天気予報を聞いてから外出し、開店したばかりの中華料理の店でよく知りもせずにやたらと辛いラーメンを注文し、ご丁寧にスープの最後の一滴まで飲み干して帰宅した。本当の辛さはそのあとでやってきた。
冷蔵庫を開けたのは口の中の火災を鎮火させるために何か甘いもの、コーラなどを物色するためであった。
そのとき、冷蔵庫の奥に例の緑色を見た。如何にも甘そうに、その色は小生の欲求を刺激した。その小さな透明カップをアルミ箔の蓋が密閉していた。その蓋を剥がしたときの快感は一生忘れないに違いないと、小生はそう思いつつ剥がし切り、一気にその中身を口中に投じた。??!
「あっ!おとうちゃん。それ、カブトムシの餌!」
良太の怒りに燃えたまなざしに射すくめられながら、小生は何とも拙い味のゼリーが喉を通過して行く、限りない不快感に打たれながら、施錠して外出した筈の玄関の扉が難なく開いたことに気付くべきだったと反省した。
了