グリーンゼリー
グリーンゼリー
冷蔵庫の冷蔵室の下の方の奥の、少し薄暗くて目立たないところに、それはひっそりとしまわれていた。樹脂製の透明な、小さなカップである。その中に、ライトグリーンのフルーツゼリーが入っている。それは、メロン味のフルーツゼリーではないかと、小生は思った。赤ワイン色ならばグレープ味、ピンク色ならば桃の味、オレンジ色ならばみかんかオレンジの味だろう。それらのものはなく、いつもメロンゼリーだけが置かれていた。
このところの連日の鬱陶しく暑い日に、冷たい喉越しのあっさりとした甘みは快いに違いないと、小生は思った。
そこに保管しているのは誰だろうか。長女の愛美だろうか。それとも妹の麗美の「お宝」なのかも知れない。それを小生が横取してしまえば当然のこととして大騒動となるであろう。
これを初めて発見したのは先週のことだった。或る日は少し量が減っているように見えた。少しづつ減って行き、或る日はまた、満杯のときもあった。所有者はまるで耳かきのような小さなスプーンで、いとおしむように味わっているのであろうか。
それはかなりの高級品で、僅かづつ口に入れても充分に満足できる程、極めて美味なものなのかも知れない。
息子の良太は帰宅すると同時に声を玄関で張り上げた。
「おとうちゃん!またカブトムシつかまえたよ」
小生は慌てて冷蔵庫の扉を閉め、数歩動いてからダイニングキッチンの椅子に腰をおろした。そしてテーブルの上の雑誌を開いて読んでいるふりをした。
「隣のたー坊にも一匹やれ。独り占めしないで」
小生は二階へ移動する良太の足音に向かって怒鳴るように云った。息子のカブトムシは今日の分を足すと合計四匹になった筈である。