和尚さんの法話 「女人往生伝」
かしまいかと言ってきたんですね。
それで和尚さんが八卦をたててみると、別れないほう
がいいという結果が出たんです。
ところが本人さんは、和尚さんの卦の結果次第では今
夜にでも家を出るつもりだったそうです。
最後の決心を付けにきたんですね。
そこで和尚さんが別れないほうがいいと言ったので、ご
たごたごたごたと言って別れたほうがいいという話にも
っていこうとするんですね。
そでも和尚さんは、お宅の家はどこですかと聞いたと
ころ、近くに夢見地蔵さんがあるのを知ってるというの
で、それだったらその夢見地蔵さんに、私は別れたら宜
しいか、別れない報が宜しいか、どうぞ夢でお告げを下
さいと、頼んでみて下さいと。こう言ったんですね。
寺の門が閉まっていたら外からでもいいし、昼間で恥ず
かしいと思うなら夜でもしいし、兎に角近いんだから毎
日参りなさいと。
そして夢が別れたほうがいいという夢だったら、和尚
さんよりもお地蔵さんのほうが確かなんだから家を出な
さいと。
然し、夢のお告げが出ないほうがいいというお告げだっ
たら絶対に出たらいけませんよと。
和尚さんの卦でも出たらいかんという卦が出たんだし、
お地蔵さんも出るなとおっしゃったらもう絶対に出たら
いけませんよと。
出るのはいつでも出られますが、一旦家を出て後悔して
帰ってくるというのは難しいですから。
まあ一週間辛抱してお地蔵さんに頼んでみなさいと。
それからそれっきり来なくて、それからだいぶんたっ
てから近くの橋の上でばったりその人と出会ったんです。
すると和尚さんと言いて、夢のお告げがありましたと
話かけてきたんです。
和尚さんもお告げの結果を聞きたいので欄干の横へ寄
って聞いたんですね。
夢で子供をおぶって手に荷物を持って、戸を開けて家
を出ようと思ったんですね、すると近所のお婆さんが居
って、そのお婆さんが何時も親切な人で相談にのってく
れる人だったんです。
そのお婆さんが戸を開けたら入ってきて、あんた何処へ
行くのと言ったんですね。
それで実はこうこうこうでもう実家に帰ろうと思うん
ですと。
するとそのお婆さんは、それはいかん。
そう早まらんと、まあまあまあと家へ押し戻されたとい
うんです。
これは家を出るなというお告げだなと思って、家を出
るのをやめたんです。
そしてあの和尚さんも出るのは何時でも出れるとおっし
ゃったしと。
道端での立ち話だから詳しいことは聞かなかったけれ
ども、結論はやっぱり家を出なくてよろしゅございまし
たと言ったそうです。
そういうこともありましたと、その奥さんに話たんで
すね。
お告げはあるものですよと。
清水さんの近くだったら清水の観音さんへお参りしなさ
いと。
この頃はまだ観光になっていない頃の話しで自由自在
に上へ上がれたんですね。
そしてその奥さんはお参りをなさったんです。
先の話しの人は夫婦分かれしようかしまいかという話で
自分がそのお告げの夢を観たんですが、この奥さんの場
合はご主人の手術をどうするかということで入院してる
わけですから、奥さんがお参りをしたんです。
そしてその一週間のうちの何日めか忘れましたけどご主
人が夢を観たらしいのです。主人がそういう夢を観たと
いいますが、この夢がどうも気にかかるんですと。
そしてその夢はどんな話ですかと聞いたら、細長い櫓で
こぐ船がありますね、その小さい船に夫婦が乗ってると
いうんです。
ところがその船には櫓がないんです。ただ二人が波に揺
られて乗ってるだけなんです。
揺られながら少しずつ少しずつ海岸のほうへ近づいてる
んです。
そして海岸を見たら、小屋が一軒あるんです。
その夢の中でもその御主人はしんどいんですね。
なんとか早くあの岸へあがったらあの小屋で休みたいん
だがなと思ったそうです。
そうしましたら、沖から大きな波がやってきてその波に
船がのって海岸へあがったんです。
ところがえらい勢いで海岸へぶちあげられたんですね。
二人は船から放り出されて、気が付いたら船も小屋もこ
っぱみじんになっていた。
こんな夢を見たというんです。
和尚さんは、奥さんその話をお聞きになってどう思い
ましたか、ご主人はどう言いましたかと聞いたんですね。
その奥さんは、これは手術は悪いという意味でしょう
かねと言うわけです。
和尚さんもそうですねと。
その夢の船に櫓がないというのは、どうしたらいいと
いう決めてが無い病でしょう。
ところが少しずつ少しずつ海岸に近付いていくというの
は、海岸へあがれば助かるという意味ですから、少しず
つでも日にち薬といいますように助かっていくというよ
うに思うと和尚さんが言ったんですね。
そして沖から大きな波がきて、一応船が海岸へあがる
ということは、あがったら上手いこと助かるのでしょう
けど、えらい勢いで木端微塵になって放り出されたとい
うことは、これは手術のことと違いますか。
やっぱりそうですかと、その奥さん。そうだったらもう
手術はいたしません。と言って帰ったんです。
手術をしないと言って帰ったんですけど、結果は手術
をしたそうです。
なんでしたのかというと、医者が手術をするなら早いほ
うがいいというわけです。
親戚の者も医者が手術をしたほうがいいというのだから、
とこうなってくるわけです。
自分の親戚ならともかく、主人の側の親戚ですね。
若しこれが助かれば問題は無いんですが、万が一手術を
しないで死なれたら自分の立場が無い。
医者がしたらいいと言ってるのに嫁が手術をさせなくて
殺してしまったと、こう言われますからね。
それが怖くて反対できなかったんです。
自分の身が可愛いがためにね。家を出るときは手術はし
ないつもりでいても、そんな気持ちになってきて、そし
て手術をするよう頼んだ。そして死んだんです。
この結果を奥さんが泣いて和尚さんに話にきたそうです。
あのとき和尚さんにも見ていただいて、夢のお告げもい
ただいて、あの日家を出るときは百パーセント手術をし
ないつもりでしたのに。
ところが親戚の者に推し進められて、一人反対すること
ができなかった。
自分が可愛くてね。
だから、私が殺したようなもんですと。
だからそういうことがあるんです。
だから皆さんなんでもお困りになったら、近くのお地蔵
様や観音様に夢のお告げをお願いしたらいいと思うので
す。どんな問題でも聞いて下さるはずです。
そういうお告げがあるということは、神仏が存在すると
いうことです。
昔の人は皆夢を大事にしたようです。
常識よりも夢をね。霊夢といってね。
昔の坊さんに湯煙の道鏡という坊さんが居って、そのと
きの女帝が道鏡に帰依するんですね。
そこで道鏡は天皇になろうという野心を起こすんですね。
女帝は帰依してますから、それならそうしなさいという
ことになったんです。
ところが周りの者は承知しない。
たとえ僧侶とはいえ一国の天皇になるいうのはそれはま
かりならんと。
しかも天皇さんがそうおっしゃってるのだから、此の上
は神のお告げを受けなければならんと。
その時代の右大臣、左大臣の中に和気清麻呂という人が
作品名:和尚さんの法話 「女人往生伝」 作家名:みわ