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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 6 娼婦と騎士

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「もしかしてテオドール・グランボルカっていうんですか?だとすると、それはもしかして、この街にあった学院の危機を救ったり、戦争状態にあったアストゥラビに少数の仲間と一緒に乗り込んで終戦協定を結んで帰ってきたっていう物語ですか?」
「ユリウス、あなた・・・なんで。」
「知っていますよ。この街の図書館には歴代の皇帝の即位後の名前や幼名が網羅された本もありますし、過去の事件簿だって閲覧できます。それに、元々皇帝付きのメイドだったというアリスの過去を考えればおのずと答えは見えてきます。」
「さっき聞いたカズン達については単純な嫉妬です。でも、もし貴女が・・・。」
「はあ・・・嘘をついてもしかたないか。そうね、そういう時期もあったわ。確かに私は昔陛下に惹かれていた時期があったし、それは家族愛ではなかった・・・いえ、ハッキリ言えば、私は一人の異性として彼を愛していたわ。」
「間違いなく過去の事なんですね?」
「・・・少なくとも、異性として愛していたのは過去のことよ。それに今でも家族として愛しているという意味ならばアレクだって一緒。彼はまだ陛下を憎みきれていないもの。」
「・・・その事を知っているのは?」
「信頼出来る友人一人だけよ。あとは養母さん・・・エリザベス・シュバルツにはバレていたと思うわ。」
「そうですか。」
 ユリウスは短くそう言うと、顎に手を当てて「うーん」と唸りながら考えこんでしまった。
「アレクやリュリュ様に話して牢にでも入れる?」
「何でそんなことしなければならないんですか。僕は貴女の恋人ですよ。ただ、その話は絶対に他の人間に知られないようにしてください。その話はアレクシス皇子にとっての弱みになる。そんなことで彼の影響力が下がるとは思いませんが、用心しておくに越したことはありません。リシエールの人間の中には、この連合軍がグランボルカ主導で仕切られていることに不満を持つ人間も居ます。」
「ユリウス。あなた、本当にそれでいいの?」
「僕は愛する人の過去にこだわるほど器の小さい男ではないつもりです。それに、貴女やリュリュのおかげで、僕は視野が広がった。この世界を救うためにはグランボルカだから、リシエールだから。そんなつまらない過去のしがらみに囚われていてはいけない。そう思えるようになったんです。なのに、人の過去のアラを探して足を引っ張ろうとする人間がいる。しかもそれはリシエールの人間だ。・・・僕はそのことが許せない。」
「ユリウス・・・。ごめんなさい、さっき可愛いって言ったのは取り消すわ。あなたはすごく成長したわ。出会った頃はただひねくれているだけの目をしていたのに今はアレクと同じ目をしている。」
「僕が成長できたのだとしたら、それはアリス、貴女のおかげです。皇子と同じ目をしているのは、きっと皇子にとっての姉さんのように、僕にも守りたい人ができたからです。」
 ユリウスはそう言って真剣で真っ直ぐな目でアリスを見た。
「僕は、どんな手を使ってでも貴女を守ります。そして、冥界への扉を閉じ、平和な世界を取り戻してみせます。だから、全て終わった時には・・・。」
「終わった時には・・・?」
「・・・いえ、なんでもありません。どうやら僕も少し疲れているみたいです。嫌だな、なんだか柄でもないセリフばかり出てくる。明日もやらなければならない仕事は山のようにありますし、今日はカズンに倣ってゆっくり寝ましょう。」
 そう言って立ち上がると、ユリウスはドアに向かって歩き出した。
「あら、今日は自分の部屋へ戻るの?」
「二人で居てはゆっくり休めるものも休めないでしょう?」
「まあ・・・それはそう、だけど。」
「寂しいですか?」
「生意気言わないの。そういうことは仕事をしっかりこなせるようになって、男性としても一人前になってから言うものよ。」
「ははは、厳しいですね。・・・じゃあ、おやすみなさい。」
 ユリウスはそう言って一礼するとアリスの部屋を出た。
 
『もし、全てが終わった時、その時は僕のことを愛していると言ってくれますか?』
 
 ユリウスは頭に浮かんだ言葉を振り払うように首を振ると、拳を握って歯を食いしばり、涙をこらえて廊下を歩き出した。