探索
探索4
1
いくつもの水際が交わる地点で、杉の木立が絶え間なく引用されては要約されている。切られた影をつぎはぎしてできた窓が幾重にも重なっては蒸発している。部屋の表情から捧げられた視力を集め忘れる。私は年齢を二倍にし、眼で音を聴き、輪郭をばらばら落として周囲に混ざってゆく。私の嗅げない世界の尾根沿いに、私の輪郭が林立する。
2
思い出と思い出のわずかな隙間にもうひとつ思い出を詰め込む。洗い立ての歴史の内壁には赤い空の粉末がまぶされている。六月の建物は七月の建物になる前に一瞬だけ九月の建物になる。一秒を分割すると六十分になり、一分を分割すると六十時間になる。散乱した未来を核にして過去は生い茂り、過去の枝先で現在は死んだように動かない。
3
湖の戦乱。硬い水面が光に彫られて、湖の知力が線と面を交差させる。水は流れることによって燃えていて、混じることによって負傷している。湖底の土が生死をかけて季節の推移を妨げている。水草が水面を反射し、湖底を屈折させている。魚の卵は徴兵され、球形の完全さを鍛えられている。湖の前線では水に溶けた武器同士が鋭さを奪い合っている。
4
机が存在するリズムを組み替えて、机を椅子に変える。部屋の中には星空が堆積してくるのでたまに掃除をする。次はどの壁を床にしたらよいのか小一時間迷う。本の中では文字が積み上げられ、要となっている文字をはずすと全ての文字は崩れ落ちてしまう。食器の容量に服の容量を足すと、私の容量より少し多くなる。