探索
探索3
1
足音が山道を滑り落ちていく、空と衝突するまでに必要な耳の数を質しながら。足元の岩から生え出ている昨日の私に、私と環境とを隔てる少年と筆談をさせる。それぞれの葉の色の量だけ枝の火力は増してゆく。緊密な空は雲の滲入を許さず、雲の造形は空気の形式として私の身をあてはめてゆく。運足の旋律に接続して、影の握力は大地を吸ってゆく。
2
砂浜に波の円形が連なっている。水と砂は重なることで感覚を交換し合う。魚の重さと日差しの硬さを飾り合うのだ。砂の湿っていく音が互いに倒し合っている、島の肉体の逆行を妨げながら。島は時間の巣の中を歩いて行く、卵を盗んで季節を孵らせる。島には動物がいない、だがあらゆる動物の記憶の始まる場所である。
3
フラスコの中の共和国。溶液はガスバーナーの加熱により選挙され、残った固体が議院を構成する。固体を別の溶液に入れると、化学反応で新しい元首が生まれる。重力は法として溶液を支配し、攪拌棒は分子同士のコミュニケーションを生む。異なる溶液を混ぜると戦争が始まり、焼け跡に化合物が沈殿する。中学生の理科の実験である。
4
公園から公園へと鳩が伝達される。下水道の回路は引き算ばかりやっている。並木道を自動車という電子が走る、並木は絶縁体として電子の逸脱を許さない。私は公園で電圧に逆らいながらブランコをこぐ。人間であることをやめなければ都市に殺される。人間性は殺菌され、愛情はスクラップにされ、苦悩は鋳直される。私は死んだままブランコをこぎ続ける。