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愛道局

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「ずっとまっすぐ行くと裏門です。鍵がかかっていますけどフェンスは乗り越えられると思います。」
 長谷川女史がそう言ったあと、何か言いたそうな表情をしたが、何も言わず引き返して行った。ちょっとだけその後ろ姿に見とれ、山本は走った。草木の匂いがエネルギーを与えてくれている感じがした。すぐに裏門に着いた。高さは2メートルぐらいあるだろうか。山本はジャンプして鉄柵の手すりにつかまり、身体を引き上げた。振り返ると白い煙とチカチカと点滅する光が見えた。外へ飛び降りようとして、かなり高いのを感じ、柵にぶら下がり、手を離し着地した。しばらく歩くと「なんか凄いことになってるよ。うん、よくわからないけどパトカーや消防車がいっぱいだよ。うん、すぐおいでよ」携帯を手にした女性が話しながら通り過ぎた。

 山本は浄愛場を振り返った。薄暮の中でそこだけが照明で浮き上がって見える。点滅する光が空に吸い込まれていく。誘蛾灯のように見えるその場所へ、パトカーの所へいって野次馬になりたい誘惑を抑えて駅に向かった。駅は特に変わった様子はなかった。電車に乗って座席に座ると少しずつ昂奮が冷めてきて、身体もだるく感じられた。非常ベルの音が耳に残っている。鉄柵の棒を握った充実感を思い出し、そっと掌をみた。長谷川女史の最後の複雑な表情が思い出された。全部はっきりしているのに夢の中の出来事のようにも感じる。

 家に着き、山本は妻の前に立つ。その顔は何も言わなくていいよ。もう寝なさい。そう言っている気がした。山本は布団を敷くとそのまま着替えずに布団に入った。


作品名:愛道局 作家名:伊達梁川