エイユウの話~終章~
「英雄譚は学校の建前だ。愚かな『エイユウ』の真実なんて伝えやしない」
キースの悲痛な叫びに、しかしジャックは柔らかくほほ笑む。
「私は昔、自己犠牲は自分勝手だと考えていました。今でも、そう思っていないと言えば嘘になるでしょう」
「違いないね」
「でもですね。自分勝手な自己犠牲が悪いとは、思わないのですよ」
ジャックの言葉は回りくどくて哲学的だ。キースは眉間にしわを寄せる。
「自分勝手は悪いことでしょ?」
「そうですね。でも、馬鹿な子ほどかわいいって言うじゃないですか」
「・・・繋がらないよ」
「馬鹿もほどほどじゃないと面倒くさいだけです。だから、自分勝手もほどほどなら魅力的な物なんですよ」
キースは、彼の考え方についていけなかった。ジャックもジャックでもっと解り易く説明できないかと思考を巡らせていたが、頭が全然働かず、良い言葉は浮かばなかった。
代わりに、こんな言葉をぽつりと漏らす。
「後悔は、していないのでしょう?」
「・・・敵わないなぁ」
キースは後ろに手をまわしてくつろぐ体制になると、青々とした空に目を向ける。雲はほとんどなく、そろそろ夏が来ることを示していた。それはちょうど、キサカと出会ったあの時期に似ている。
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷