エイユウの話~終章~
「アウリーやラジィには悪いことをしたと思っているよ。もちろん、キサカにも」
キースはそっと目を閉じる。瞼越しに、日の光を感じとることができた。
「キサカは死んでしまった方が、魔物から早く解放されてよかったのかもしれない。ラジィも下手に延命しない方が、僕への好意に気付くこともなく楽だったかもしれない。ラジィの治療がなければあの流の導師も死ぬことは無くて、保険医だったあの人が失踪するなんてこともしなかったのかもしれない。アウリーも僕が自分を封印してしまわなければ、ボクを待ち続けることは無かったのかもしれない。僕が呪われていなければ、ジャックはボクを養子に迎えるときの、あんな苦労はしなくてよかったのかもしれない。他にもまだまだ、自己犠牲をしないほうが、我が儘をしない方が良かったのかもしれないって思うことはいくらでもある」
「でも・・・」と言うと同時に、キースは目を開けた。
「そんなふうに思うけど、あの時しなければこうなったかもとは何度も考えるけど、でもやっぱり、『やらない』っていう選択肢は僕の頭にはないんだよ」
キースは、隣に座るジャックを見た。静かに目を閉じて、気持ちよさそうな顔をしている。のけぞった状態からまた前傾姿勢に身体を戻すと、彼はジャックを見て笑った。
「僕はね、そんな生き方を許してくれたみんなが好きなんだよ。だから、僕はやっぱり自分の過去を否定したくないんだ。別の選択肢があってもきっと、同じことをするね」
ジャックは何も言わない。ただ、静かに目を閉じていた。キースは縁側から地面に降りると、ジャックの前に立つ。育ち盛りの雑草が、ズボン越しにくるぶしをくすぐろうとしてきた。
「ごめんね・・・最期にする話じゃなかっただろう」
キースはそっと、ジャックの手を取った。その手にはまだ温かさが残っていたが、しかししっかりと浮いている血管を触っても、脈を感じとることは出来ない。赤い瞳を隠した目は皺に埋もれてしまっており、口角も緩やかに上がっていた。
「僕の話を聞いてくれてありがとう、ジャック」
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷