エイユウの話~終章~
「自己犠牲は・・・ダメです」
どう声をかけていいのか解らなかったジャックは、なんとかそれだけ零した。すると、アウリーが涙を止めてきょとんとした顔で彼を見たので、弁解するように、彼は言葉を続けた。
「いや、だって、その、残る・・・人は、どうするんですか」
その一言で、ジャックの中の堰が壊れた。
「残された人は、どうするんですか?貴女が死んでも、皆悲しみます。もちろん魔禍の喚使が亡くなってもそうですけど・・・。でも、だから、貴女のしようとしていることは間違っているわけで、その、つまり・・・」
話がまとまらない。ジャックは、細かく伝えるのを諦めて、一言でまとめる。
「自己犠牲は結局、その人を大切に思ってくれている人のことを犠牲にしているのと同じなんですよ!」
だから、決していいことではない。美化されがちだが、美化していいものではない。ある意味では非常に身勝手な行為だ。そう思うもののそれ以上は言えなくて、ジャックは口をパクパクと魚のように開閉させた。
が、それでもアウリーには伝わった。
「でも、じゃあ、どうすれば・・・」
ジャックは彼女のことが好きだ。だから、彼女に無茶はしないでほしい。でも。
魔禍の喚使がいなくなっても、彼女は傷付くだろう。
ジャックは、腹をくくった。
「あの、紙は持ってますか?」
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷