エイユウの話~終章~
―――僕が・・・一人じゃなかったから?
口に出そうとするだけで、涙がもっと止まらなくなる。
「何やってんだ!早く逃げろ」
声をかけてきた人物が、振るえる肩を掴んだ。初めは誰だか解らなかった。が、次第に記憶力がその名を呼び起こした。
「地の・・・生者?」
春の模擬戦闘で、ラジィと戦った、ニール・マルセだ。地の最高術師である彼は、最前線で戦っている最中のようだ。黄色の制服のところどころが避け、深紅がにじんでいる。
彼も覚えていたようで、すぐに違和感に気付いた。
「あれ?魔禍の喚使?ちょっと違くね?」
ハッとして、キースはフードを被ろうとしたが、今は制服でフードはない。軽蔑されるのが怖くて、つい俯いたのだが。
「前線が人手不足なんだよ。一緒に来てくれ」
ニールはそれしか言わなかった。問い詰めることも、眉をひそめることすらない。
茫然と座りつくしていると、わざわざ引き返してきて、その腕を掴んだ。
「何してんだよ、早くっ」
数メートル引っ張られてから、我に返った。勢いよく、ニールの腕を払う。
「でも僕が関わったら・・・」
そこまで言ったところでニールは察したようで、不思議がってきた。
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷