エイユウの話~終章~
「キース君、どこに・・・」
「キサカを止めてくる」
魔力を使い果たせば死ぬ。イクサゼルがキサカの魔力を使い果たしたらもう終わりだ。今ならまだ、イクサゼルだけを退治する方法があるかもしれない。
砂埃で汚れた廊下をひた走る。より鮮明に聞こえるようになった騒ぎ声を辿り、止まることはなかった。砂は鼻にも影響し、むず痒い感覚に襲われる。しかしそれにかまう余裕もない。戦う気のある生徒たちは、もう皆戦場に向かったようだ。敵は一人なれど、キサカの膨大な魔力と、イクサゼルの残酷さは面倒な相手だろう。
その面倒こそが、キースにとっては救いだ。誰かがキサカを殺してしまっては困る。退治したいのはイクサゼルだけだ。そろって片されては、状況を収めたとは思えない。
ふと、誰かが隣を過ぎった。走ってきて初めて見た生徒の姿だ。
「あ・・・」
声をかけたところで、キースはがっかりする。それはただの姿身だった。木鏡と同じ成分の魔石で作られたそれは、砂だらけの廊下とは裏腹に綺麗なままだ。つまり、彼が見たのは鏡に映った自分の姿だったのである。
しかしがっかりする以上に、驚いていた。信じられなかったと言った方が正しい。
彼の頭に、動物の耳が生えていたのだ。
茫然としたまま、彼は顔の横に触れる。もともと耳のあったそこには、もう何もなかった。そのまま手で顔をなぞっていく。髪の毛をかき分けて、鏡に映っている獣の耳に手が触れた。それはしっかりと、確かに彼の頭から生えている。
解った途端、激しい吐き気が襲ってきた。胃が、食道が、身体が、体内に吸収された異物を戻そうとしている。しかしもう吸収されたものが吐きだせるわけもなく、苦く刺すような感覚だけが喉を襲った。思わず咳き込む。
吐けるだけ吐いた後、耳が取れないかと掴んだ。しかし勢いよく掴んだ分だけ、激しい痛みが彼を襲う。たまらずボロボロと涙をこぼした。
なんでこんなことになったんだ。どうしてこうなったんだ。
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷