エイユウの話~終章~
「もう違います。だから、皆を守りたいんです」
ラジィの恋は、キースから逃げるための恋だ。金髪迫害思想という負の思想に、彼女は関わりたくなかったのである。だからもし、キースが彼女に告白をすれば、彼女は振ることも付き合うこともできなかった。振れば金髪迫害への賛同とされ、付き合えば迫害思想を支持する者から彼女まで迫害されてしまう。そのため、キースが告白してこないように、誰かに恋をしていなければならなかったのだ。彼女は失恋のたびに逃げ道をふさがれて、キースといることの恐怖を味わっていたということである。
ゆえにキースの恋は、ラジィが失恋したときに終わっている。一度目は流の導師に失恋したとき、二度目はキサカに失恋したとき。両方とも、彼女はぼろぼろになった。もうこれ以上、彼女を困らせたくなかった。だから、彼女を好きでいるのもやめたのだ。
それでも、彼女の幸せは願っている。彼女への恋が終わったから、彼女を取り巻く環境を守りたい。彼女に平穏をあげたかった。キサカと結ばれてくれればうれしい。昔と変わらず中庭で、三人が楽しく話していてくれれば喜ばしい。もしそれを、自分が与えることができるなら、キースは幸せに感じる。
つまり、皆を守ることが、キースがラジィにしてあげられる唯一の方法だと、彼は思っているのである。
けれども流の導師には、そのつながりが解らなかった。好きな者と結ばれることは、彼にとっては何にも変えられないものだ。それはきっと彼だけでなく、多くの人々に共通する喜びだろう。キースの考えの方が、ずっと少数派だ。
流の導師は言葉が続かなくなった。キースが、他の導師に連れられて保健室を後にする。モルモットにされるのだろう幼い生徒の背中を見送ると、彼はガクリとその場に膝をついた。そのまま這う形になる。
「くそっ!」
淡い桃色の、優しさを醸し出す床を、血が出るまでずっと叩き続けた。
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷