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エイユウの話~終章~

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「もう、いいです」
 ゆっくりと、キースが発する。流の導師が、そのほかの導師たちが、一斉に彼を見た。泣き虫と言われた彼は、目にたっぷりの涙を浮かべ、やんわりと笑う。その笑い方があまりにも優しくて、外の騒音をかき消した。
 キースは流の導師をラジィのそばに残し、五人の導師のもとへ歩を進める。
「待て」
 流の導師が呼びかけた。どんなに態度が悪くても、いつも必ず足を止めている。しかし、キースは淡々と前に進んだ。
「魔女は絶対に私が治す。心の欠陥もだ。彼女達が目覚めたとき、貴様がいなくてどうする?」
 キースの足が止まった。それでも彼が流の導師の方を見ることはない。
「ありがとうございます。でも」
 彼の肩が、ピクリと動いた。
「ラジィはキサカが好きです。アウリーはキサカを頼りにしています。キサカは必要なんです」
 これ以上涙が出ないように、彼は深呼吸をする。誰も、その意図には気付いていない。
「二人には、キサカ『が』必要なんですよ」
 自分は必要ではない。彼はそう言いたかったのだろうか?真意のところは解らない。しかし、その場にいた誰もがそう捉えた。流の導師にキースの心がナイフのように突き刺さって、それがひどく痛くて、彼はベッドシーツを握りしめる。
「必要性じゃない。貴様は魔女が好きなのだろう?」
 まさか、流の導師がそれを知っているとは思わなかった。キースはとても驚いたのに、それが外に漏れることはない。彼は振り返って、涙を流した。とうとう、こらえられなくなったのだ。
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷