エイユウの話~終章~
「彼は危険因子です」
突然何を言うのか。キースは流の導師に目を向けた。彼とは和解できたはずだ。いまさら危険因子と言われる覚えはない。しかし、流の導師は今までのキースの行いを、責めるように並べ立てた。彼を嫌っていた理由を自覚したキースは、どんどん耳が痛くなる。
「・・・以上から、彼は導師に対して敵対心を持っています」
その一言が重要だった。導師たちはざわめき、キースもハッとする。
「彼が我々を裏切り、明の達人・・・いや、イクサゼルに加担しないという保証は全くありません」
こんな状況になってまでも、彼はキースを守ろうとしてくれているのだ。そしてきっと、この話はもっと前からされていたのだろう。今までの彼の行為は全て、この日のため、このフォローを入れるためのものだったのである。
キースは、眠っているラジィを見た。
ああ、彼女はなんて正しいのだろう。
彼女を見つめる目はあまりにも静かで、落ち着いていた。その姿はもう幼い子供には見えなくて、導師たちは一度沈黙する。しかし、明の導師が咳払いをすると、キースから目を逸らして反論する。
「それは、貴方の振る舞いが悪いからでしょう?彼の責任ではありません」
確かに流の導師のあの行いは、キース以外の術師がやられたとしても、抵抗しただろう。決して「キースだから」起きた事態ではなく、危険因子と言うには威力がない。説得力もない。
きっと、最後の手だったのだろう。弱弱しい一手だと、彼自身も思っていた。だからそう言われてしまうと、もう抵抗できなかった。
それでも彼は聡明な頭を働かせ、キースを助けるために反論する。しかしどの意見も説得力に欠け、流の導師の顔はどんどん険しくなった。
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷