エイユウの話~終章~
「流の導師・・・っ!」
ボロボロになっているのは、他の導師にやられたのだろうか?床に投げられた彼は、痛そうに呻いた。それから身を起こし、涙を流すキースと、ボロボロのラジィを見る。
「ケルティア、セレナ!」
導師の口から、称号ではなく姓が呼ばれた。とっさに出てしまったのだろう。自分の体も痛いのだろうに、彼はラジィのベッドに駆け寄った。
「待て、今すぐに治療を・・・」
「シーランセイル殿」
呼びかけにも答えず、流の導師はラジィの治療を始める。心の導師は倒れている自分の娘が心配で、ラジィを回復させる時間さえ惜しいようだった。
「早く娘の治療を・・・」
「気絶しているだけだろ!不安だったら、流の術師を連れてくればいい」
流の導師はゆらりと心の導師を見た。
「それとも、軽傷の自分を助けるために、重傷の友を見捨てさせたという事実を娘に突きつけるか?」
導師間でも上下関係はない。それでも年齢を気にして、流の導師が他の導師に対して無礼を働くことはなかった。そんな彼がため口で話し、ましてや脅すなんて予想していなかったのだろう。しかも、流の導師は過去に重傷のラジィを放置しているのだ。
言い返せなくなった心の導師はため息をつく。それから彼はキースに手を差し出した。
「魔禍の喚使よ、職員室へ」
流の導師とキースは、同時にピクリと動いた。間違いない。キサカが乗っ取られた今、導師全員で行動していたのはそのためだろう。驚いた顔をしていたが、キサカがラジィを抱えていたことを知っていれば、保健室にキースが来ることも想像に難くない。
流の導師が治療をしながら、口を開いた。
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷