エイユウの話~終章~
「そうだ。キース、ラジィを保健室へ連れて行ってくれ」
「ラジィ?」
背筋がぞっとした。気のせいだと思い、周囲を見渡す。姿は見えない。煙の奥に目を凝らすも、煙の中にいる人々は、一人も見えなかった。キサカが眉間にしわを寄せる。
「ふざけてる暇はねぇぞ」
そう言って、抱えていたものを下した。片手で抱えていたから、もっと軽いものだと思っていたのに。
「ラジィ・・・っ!」
下されたのは、ボロボロになったラジィだった。生きているようだが、確かに一刻の猶予もないと言った感じだ。この戦闘の中、最高術師であるキサカが抜けることができなかったのだろう。キースは大急ぎで木鏡からクルガルを召喚すると、ラジィを乗せる。気を失っているラジィはとても重くて、片手で抱えていたキサカとの腕力差を実感した。
「キサカッ、君も・・・」
そう言いかけたところで、煙の向こう側の人物の姿が見える。
最後の一人、アウレリア・ラウジストンだった。
彼女は砂埃にむせながら、キースを視界にとらえる。さっと青ざめたかと思うと、大声で叫んだ。
「キース君、逃げてください!」
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷