エイユウの話~終章~
『ノーマンと深く関わっていて、そんな思想持つやつがいたら、知りたいくらいさ』
キースの頭に、その言葉がふと浮かんだ。誰のセリフだったか、よく覚えていない。しかしそこで初めて彼はあることに気付く。
一年生と二年生の授業には多少の違いがある。しかし、同じ授業も同じくらい沢山あった。二年生は二年生ですでにグループを形成しており、一年生同士でつるむことになることが多い。そのため、結果として二年生と一年生が絡むことは少ない。だから、キースに話しかけてくるファースは、一年生だと思った。
ファースは断言できるいじめはしてきていない。「泣き虫キース」という渾名の提唱だって、考えれば仕方がない。金髪の、という渾名がつくよりもいい。そう考えると、ファースは初めから彼を「金髪」として見ていなかったのだ。
金髪迫害思想に溺れていたのは、彼ではなく、キースの方だったのである。
「・・・ダメだなぁ、僕は」
こんなことにならなければ、気付けないというのが嫌だった。でも自分で思っていたよりも、人々は優しかった。つい、涙が出そうになる。
水面を見上げたような視界で、彼は三人を探した。ラジィと、アウリーと、それからキサカ。全員で逃げることを目標にがむしゃらになる。
現実味が無くなるほどに磨かれていた廊下が、ドロドロに汚れていた。砂埃が出始め、自分が荒れている方へ向かっているのだと、キースは気付く。彼らは今、最前線で戦っているのだろうか?そんな不安がよぎった。イクサゼルは、流の導師の口ぶりから考えるに、簡単にゴパスに憑依出来る様子だった。もしその推測が当たっているなら、キサカが最前線で戦うのは危険だ。
ぶわっと砂埃が迫ってきた。その煙とともに、誰かが飛び出してきた。薄紅の頭髪、ガタイのいい体、赤色の制服、それは。
「キサカ!」
タイミングが悪かった。キサカは驚いて、「うわっ」と後ろに転ぶ。キースが慌てて駆け寄ると、彼が何かを抱えていることに気付いた。腰をさする彼は、キースを見て目を丸くする。
「おお、早かったな」
「導師が渾身の力で治療してくれたからね」
「渾身って・・・」
場に似合わず、彼は笑った。緊迫した空気が、笑顔にほだされる。すぐにまたドンと大きな音が鳴り、煙の向こうに何人かの人影が見えた。
「やべっ」
キサカは抱えていたものを抱え直す。しかしすぐハッとして、キースの方に向き直った。
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷