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３

　キースは校内を夢中になって走っていた。しかし、逃げろと言われても、何処に行けばいいのか分からない。ただ、二人を探していた。
　角を曲がるところだった。勢いよく誰かにぶつかって、彼は転んだ。
「泣き虫キース？」
　恐怖心を与えるその声の主は、彼をよくいじめてきた生徒、ファークトリスト・バウエルトンだった。彼は友人に支えられて転んではいない。転んでいたら、また難癖つけられたことだろう。
　立ち上がったキースは、ほこりも払わず、謝りもせず、走り出そうとした。そんな彼に、声がかけられる。
「おい、逃げるのか？最高術師が」
　そう言われて、キースの足が動かなくなった。最高術師は本来、他の生徒が戦っているときに逃げるわけにはいかない立場だ。そして望まずとも、彼はその立場を得てしまった。そのあとも、落としたってよかった。でも一生懸命彼を抜かそうとラジィが追いかけてくるから、その地位を楽しんでしまったのはキース自身である。その責任は、きちんと取らなくてはならない。その事実を、改めて思い知らされたのだ。
　何もしゃべらないキースを見て、ファースは友達二人を見た。それから、キースの方に向き直る。透き通るような肌は、青ざめていて色が悪かった。長いまつげの付いた瞳は伏せ気味で、金色の髪も地響きや風でさらさらと動く。ファースは周囲を見渡してから、少し唸った。
「緑の魔女と心の欠陥なら、中庭の方にいたぞ」
「え？」
　驚いて顔を上げると、彼は納得した顔をしていた。厚い雲は特に雨も何も降らせず、いつの間にか流れている。ファースに日光がさっと射した。
「やっぱり、二人を探してたんだろ。お前が逃げるわけないもんなぁ」
　何故、信用してくれているのか解らない。彼は泣き虫キースと言う不本意な渾名をつけてきた。何かするたびに、自分ならこうするのにと批判もしてきた。だから、彼は自分の事を嫌っていると思っていた。いじめてきていると思っていた。でも、それはキースの思い込みだったのだろうか？いまさら気づいても、遅かったのかもしれないけれど。
　友達と話しながらその場を去ろうとするファースに、後ろから精一杯の声をかける。
「ありがとうっ！」
　ファースはびっくりとした後、ハハッと快活に笑った。そのまま友達と走り去る彼を見送る。金糸の彼と会話したにもかかわらず、友達は特に何も言わない。この緊急事態だからだろうか？