エイユウの話~終章~
「この事態で疑心暗鬼になるのは責めねぇけど、俺だってピリッとなるって」
彼は身を起こすと、ラジィに向けて手を伸ばす。反射的に、ラジィはその手をはたいた。キサカが驚いた顔をした後、少し悲しそうな顔になる。
「・・・さすがに傷付くな」
「キサカは・・・」と言い返そうとすると、彼が声を荒げた。
「俺のせいなんだよ!こうなったのも、キースが捕まったのも!」
らしくない言葉だ。そう思った。でも、嘘だとも思えなかった。本気で感情的になったキサカを、彼女は見たことがない。いや、きっと廊下ですれ違ったあのときもそうだったのだろう。珍しいと思う反面、らしくないと言い切れない感情が溢れる。とうとう、強気に出れなくなってしまった。堰を切ったように、キサカが叫ぶ。
「俺が隠してなけりゃ、キースは捕まらなかった!俺がアウリーの助言をきちんと聞いていれば、こんな事態は起きなかった!俺があの男に魔力を与えなければ、学園を危機にさらすことも、キースを危険にさらすこともなかった!全部俺のわがままが生んだ事態なんだよ!それが解るから、俺のせいだって明白だから・・・」
つらそうに、キサカは中庭を見た。いつもみんなで笑いあった場所には、大きな穴があいている。あの広葉樹だけが、かろうじて根でその命を保っていた。あの下に監獄が広がっていたという事実にも驚かされるが。
悔しそうな顔のキサカに、ラジィが思わず尋ねた。
「隠してたって・・・、タッパだってこと?」
びっくりして、キサカが振り返った。その反応に驚いた彼女を見て、彼はドスンと壁に寄り掛かった。そのままずるずると下りて、ラジィを見上げる。
「・・・やっぱ、知ったか」
「驚いたけど」
差別するつもりもない。そう彼は受け取った。フフと、つい笑いが漏れる。ラジィもつられて笑った。二人の言い合いが治まったと考えたアウリーが、合流しようと歩を進める。その時、大きな音が彼女の耳を襲った。
作品名:エイユウの話~終章~ 作家名:神田 諷