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初めてのお見合い

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 父はそう云うと立ち上がった。近所にできたカラオケスナックへ行くことにしたらしい。
下山は誘われなかったことに安堵を覚えた。

                 *

 晴天の土曜日になった。梅雨前にしては気温が高すぎることもなく、湿度も意外に低いと感じた。だが、昨夜もあまりよく眠れなかったので、下山は二日続けての寝不足である。その眠気を一気に蹴散らして彼女は下山の前に現れたのだった。
「初めまして、高柳と申します」
 会釈した高柳美里は製薬会社のコマーシャルの最後に聞こえるような澄んだ可愛らしい声でそう云い、明らかに緊張しながらも笑顔を見せている。
「下山です。いきなりですが、私はあなたをひと眼見て結婚したいと思いましたよ」
 ソファーから立ちあがった下山のほうは、対照的に真剣な表情だった。
 ホテルのロビーに現れたスマートで優雅な高柳美里は、写真とはかけ離れた印象の女性だった。母のことば通り、美人という表現は間違いのないものだった。たった今湯船から上がったばかりといった風情の、正真正銘の水もしたたる美女に違いなかった。
作品名:初めてのお見合い 作家名:マナーモード