初めてのお見合い
「お父さんは昔背が高い女に惚れてたらしいね」
小柄で今は小太りの母が、茶の入った湯呑みをテーブルに並べながら皮肉っぽく云った。
「お前、そんなこと誰から聞いたんだ?」
父はかなり慌てている。
「死んだ幸次郎さんが云ってたの。三十五年くらい前にね」
幸次郎さんというのは父の兄で、胃癌で亡くなったのは五年程前のことだった。
「ところで、これのことを随分古い云い方をするんだな」
下山は身上書をテーブルから持ちあげて云った。
「そうだな。テレビで釣り書きなんてことばを云ってるのは、聞いたことがないな」
「英語だけじゃなく、フランス語も話せるんだねぇ。そういうところはつり合わないねぇ」
母はそう云うと心配顔になった。
「ピアノもひけるみたいだし、かなりの才女ということだね」
下山がそう云うと母は、
「お料理できるのか、そこが心配だね」
「うちの母さんも最初は料理なんてものじゃなかったけど、なんとかなるもんだよ。余計な心配はまだ早い」