黒い少女
曲がりくねった細い道を登り降りした挙句に、西伊豆の漁師の家に辿り着いたのが午後二時半だった。出迎えた漁師の家族の中に日焼けした美少女が居て、翔太と欣一は同時に一目ぼれした。
「あのこ可愛いなぁ。友香っていう名前なんだって」
「どうして知ってるんだよ、そんなこと」
「ねえちゃんから教えてもらったんだ」
砂浜で遊びながら二人の少年たちはそんなことを話した。
「明日の朝、漁船に乗せてもらえるんだ。友香ちゃんも一緒だといいんだけどな」
「ここへ連れて来れなかったかなぁ」
「部活だから駄目だって」
「そうかよ。どんな部活なんだ?」
「テニスらしいよ。おれも最近テニス始めて良かった」
「ちくしょう。おれもテニス部に入ろうかな……ところで、今夜泊まるあの家は知り合いだとかいうけど……」
翔太は聞いてはいけないことかも知れないと思いながらも訊かずにはいられなかった。
「ねえちゃん、沼津のキャバレーで働いてるんだ。そこへちょくちょく漁師が飲みに来るわけよ」
「漁師って景気がいいんだな」
「でっかい伊勢海老が獲れるからだよ。明日は秘密の場所で漁をするんだから、翔太も黙っているんだぞ。誰かにばらそうとしたら、命の保証はできないらしいぜ」
「やばい話だな。乗るのよそうかな」