黒い少女
コンビニから出て来たらしい欣一の姉の雅代が笑顔を向けながら近づいて来た。欣一よりかなり年上の雅代は、数年振りに会うと恐ろしく美人になったように、翔太には思われた。
「雅代さんはテレビの女優みたいです」
そう云いながら、翔太は顔を紅くした。
「翔太君、一緒に伊豆へ行こうか?これから知り合いの漁師の家に行く所よ」
そう云う雅代の表情は著しく変化していた。翔太の一言が功を奏したことになる。
「今からですか?」
「夏休み中でしょ?明日帰って来るって、お母さんに云っておくね」
雅代はすぐに電話で翔太の母にそれを伝えた。翔太は車のクーラーが気持ちいいと思いながら後部座席に乗り込んだ。そして、その車に先程から乗っていたのが中学で坊主頭にされた欣一だと気付くまでに、十五分以上もかかったことになると思った。
「翔太君、途中で海水パンツを買ってあげるね」
車を発進させて間もなく、雅代は云った。
「お父さんからお金をもらったから……あっ!海水パンツ履いてます。お父さんと伊豆へ行くことになってたんですけど、仕事の都合で駄目になったんですよ」
「翔太も履いてるのかよ。予定通りに伊豆へ行けて良かったじゃん」
欣一はズボンの中の海水パンツを見せながらそう云って笑った。
「だったらお母さんも誘えばよかったわね」
既に高速道路に入っていたので引き返すわけにも行かなかった。