黒い少女
黒い少女
父の仕事の都合で伊豆へ泳ぎに行く話が急にぽしゃってしまい、その代わりに父から小遣いをもらった。それを持って翔太はプラモデルの飛行機を買うために家を出た。店の前に白い車が停車している近所のコンビニでアイスクリームを買うと、それを舐めながらそこから五分程度の模型屋に向かった。
午前九時過ぎの炎天下を小柄な彼が歩いていると、道路に汗とアイスクリームの滴が落ちた。やがて、住宅地の中のその店が潰れたのは先週だったと聞いて翔太は落胆した。
「こんなところじゃ商売にならんだろうと前から思ってたんだが、とうとう夜逃げするように消えちまったよ」
隣の酒屋の主人は吐き棄てるようにそう云って上空の積乱雲を眩しそうに見やり、手の甲で顎の汗を拭った。
翔太は朝から酒屋で酒を飲んでいる老人たちを不快な想いで眺めながら来た道を引き返すことにした。最初から駅前のデパートを目指すべきだったと、大通りのバス停に着いたときにもう一度考えた。
「おーい。翔太じゃねえか。どこへ行くんだよ」
コンビニ前に停車している白い車の中から声をかけたのは、去年までよく一緒に遊んだ欣一だった。三箇月余り前にほかの中学校の生徒になってからは、家が遠くなったせいもあって疎遠になっていた。欣一の家はどこかに引っ越したのだが、新居の場所を聞き逃した。
「バスでたまこしデパートへ行くんだ」
「バカ。そんなもん潰れちまってねえぞ」
「久しぶりだねぇ。翔太君、背が伸びたでしょう」