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きらめき

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 株式会社群馬フラワー農工は、群馬県館林市に広大な工場を有している。およそ2000平方メートルの敷地内に25階建ての人工小麦生育工場と、別棟で小麦粉生産工場及び倉庫がある。
 アキアカネが群れ、高く低く飛び交っている。
 池村美穂が人工小麦生育工場のエントランス開閉認証装置に掌をかざそうとした時、何かに誘うかのようにまとわりついていたアキアカネが、ポトッ、と音を立てて落ち、内部の物がはみ出した。精巧カメラが内蔵されているロボットである。ロボットの出す微弱な波長を捉えた、レーザー光線銃が撃ち落としたのだ。幾体かのアキアカネの形をした機械の残骸を足元に見ながら、建物の中に入っていった。それらはお掃除ロボットが回収し、解析部へ回されるはずである。


 企業は徹底した秘密主義で、同業のテクニックを盗もうと、鵜の目鷹の目で狙ってくる。日本国内の同業社はお互いに切磋琢磨するために研修会で技術を公表することもあるが、外国企業に対しては、堅固に秘密を守っている。それが、日本が独自に強くなった要素でもある。
『水と食糧とエネルギーを自由に得ることが出来た国が最強となる』
時代なのだ。


 美穂は、エスカレーターで1階ずつ上がっていく。各フロアの周囲には、ガラス張りの栽培室がある。階ごとに異なる生育状態の、背丈の低い小麦がぎっしりと並んでいる。
 ひと部屋ごとに設置してある、1枚の大きな板には多くの穴が開いており、その穴に種を入れておくと背丈が伸びるにつれその板を上昇させて、茎をしっかり支える働きをする。麦が成熟すると、刈り取り機が板の上を自走して、刈り取っていく仕組みになっている。1台の刈り取り機が23階分を昇降する。刈り取った麦はダクトから1階に落とされて、隣の工場へ運ばれる。
 それぞれの生育状態を管理するのが、美穂の仕事でもある。


 麺類向け、粉もん向け、パン向けなど用途によって微妙に生育条件が変わる。植物に共通の三大栄養素、窒素・リン酸・カリウムに加え、微量栄養素を含んだ水耕栽培。LEDライトによる照射波長と照射時間、温度によって生育状態をすべて管理できるのだ。それらの条件によって、味や粘り気などが変わってくる。天候に関わらず、年中安定した栽培が可能である。
 それぞれの栽培条件と状態に異常がないことを確認して最上階の研究室に到着するまでに、1時間近く歩いたことになる。
 ユーザーの要望はこまかく分化し、それらに応えるべく栽培条件の実験研究及び品質管理は、どこまでも際限なく続いていくようだ。


「高島君、早いのね」
 クリーンルームウェアに着替え、エアシャワーを浴びて研究室に入ると、後輩の高島忠雄は、すでに機器の調整をしながらデータを取っているところであった。
「お早うございます。社長が、部屋に来てくれ、と伝言して行きましたよ」
「そう、ありがとう。生育状態をひとつずつチェックしていたから。だいぶ遅くなってしまったかな」
「大丈夫だと思いますよ」
「じゃ、ちょっくら行ってくるわ。後、よろしくね・・・何の用事かなぁ、面倒事でなきゃぁ、いいんだけど」

作品名:きらめき 作家名:健忘真実