きらめき
「おい、軽く腹に入れに行こうか。今日も遅くなりそうだしな」
中林は、パソコンに向かって記事を入力している、後輩の米沢の肩を叩いた。
ニュース配信社JNAのオフィスは、東京都港区のニュースカイビル32階にある。社の連中は“ニュース怪ビル” などと揶揄しているが、国の重要機関庁や大使館も入居している、52階建てビルである。
「そっすね、俺、冷めんが食いたいんすよね、いいっすか?」
「お前、麺類が好きなんだよな。じゃ、いつものラーメン屋だな」
「フーッ、やっぱ日本人は米だよ」
ラーメン屋で大好きな梅干し入りのおにぎりを食べた中林は、歯に付いた海苔を楊枝でこすり落としながら、まだラーメンをすすっている米沢に問いかけた。
「なぁ、この前の新幹線大惨事、どう思う? オレさァ、新名神で車が制御できなくなって大破した事故と関連があるように思うんだよな。時間といい場所といい、近いだろ」
「そっすね、あれはどちらも、コンピューターの故障でしょ」
「それだけとも思えないんだ、変だと思わないか?」
「思いませんス」
中林はテーブルに腕を乗せて体を突き出し、器の底をかきまわして麺をすくい取っている米沢の顔を覗き込んだ。
「お前最近、変わったんじゃねぇか、なんか気力が落ちてきてるような気がするぜ。なんてゆうか、反骨精神がなくなってきているような」
「そうっすか」
「ほら、反論してこない」
「先帰っててください。俺ぁちょっと、ぶらぶらしてから帰るっス」
その時、ふたりそれぞれの携帯端末が震えた。
[至急社に戻れ]
中林は米沢と視線を交わすと、「大将、オレに付けといて」と言って、店から飛び出して行った。米沢は水を口に含むとすすぐようにしてから飲み下し、ゆっくりと席を立った。