きらめき
しかし、中林が発信する情報は、ことごとく消されていった。
「中林、話がある」
古川主幹に呼ばれて言い渡されたのは、解雇通告だった。
それでも真実を発信し続けた。が、なんの反応も得られなかった。
美穂は、薬品混入に気付いた時点で、もっと積極的に行動を起こさなかったことに、ほぞを噛んだ。そして会社を辞め、仁の、宇宙へ脱出する計画を手伝った。居住性の高いロケットが完成しつつあった。
相変わらず、日本政府のセキュリティーに対する認識は甘く、ついにレーダーを突破した他国のAI(人工知能)無人戦闘機が、軍基地を攻撃し始めた。彼らは、人間の生存に必要な工業技術を世界に公開するように求めたが、日本政府はこれを拒否したからである。
あくまでも、世界の中で優位性を維持することを選んだ。
AI無人戦闘機は、無差別に殺戮を始めた。人工知能は勝つために、得られた情報から次々と、プログラムを自動で書き換えていく。
中林はそれでも情報を発信し続けるために、戦闘の影響のない奥深い山中に施設を建造し、避難した。
中林の動静は公安には筒抜けであったが、政府は、密かに便宜を図るように指示を出していた。場所を提供したのは、実は政府の導きでもあったのである。
徳澤園から前穂高岳に向かう熟練クライマーの基地、奥又白池周辺である。
「池村さん、一緒に来ていただけませんか?」
「ごめんなさい。私、中島さんに従って」
「宇宙に行っても、生きられっこありませんよ」
「分かっています。でもね、地球の、人類の最期をこの目で、見ておきたいの」
「オレは、愛する大地の上で、愛する家族や仲間たちと死にます」
ふたりは固く握手をして、異なる道を選んだ。