きらめき
視察後中林は、月旅行から帰って来た中島仁と能代で、池村美穂を交えて会った。
彼の会社のロケット発射場に、ロケットの姿はなかった。
「ロケットは格納庫に収納しています。ご覧になりますか?」
「わおっ、見たいわっ」
「そうだな、後で見せてもらおうか。それより、確認したいことがある」
誰もいない、雑多な機器類が置いてある、実験室のようなところで話をしていた。
「中島君は、コンピューターには詳しそうだね」
仁は黙って、中林の顔を見ていた。
「新名神を走っていた車、東海道新幹線、それらのハッカー行為。それからハイジャック、もだ。君がひとりでしたことではないのかい?」
仁は視線を落とした後、目、だけで笑って言った。
「分かってしまいましたね。警察に引き渡しますか?」
中林はそれには答えなかった。
「理由も考えてみた。君は、薔薇乃かおりが書いた、『中性子線被曝』に、注目を集めたかったんじゃないか、と」
「フフ、その通りです。でも、思ったほどではありませんでした。あと6年しか残されていないんですよ。人類が死滅するまでに。日本の、日本の政治の上層部にいる人だけが助かろうとしている、というのに。もっとマスコミが、捉えてくれると思っていました。それと、セキュリティーの甘さを教えたつもりです。亡くなった方々には、申し訳ないことをしてしまいましたけど」
最後の方は、消え入りそうな声になっていた。
「残念だったな、時期が悪かったんだよ」
「どういうことですか?」
美穂が後を引き取った。
「群馬フラワー農工のシステムが、六ケ所町に建設中の、地下都市に採用されたようなの。そのきっかけは・・・言いにくいんだけど・・・政府の陰謀に、社長が協力していたらしい」
仁は怪訝な表情を浮かべて、美穂を凝視した。美穂は一旦うつむき、上目で中林の様子をうかがってから続けた。
「初めは、ラーメン向けの強力粉だけ、だった。ところが今では、すべての小麦粉にね・・・気力や批判的に考える力を奪ってしまう薬品が、投入されていて。阻止できないか、と考えたんだけど・・・」
沈黙が支配した。
仁がそれを破って、裏返ったような声で言った。
「やっぱり、世界戦争が起こって、核爆発の連鎖が生じて、人類は滅亡してしまうんだ。時空の歪みが生じて・・・その情報を22年前に、政府が手に入れていたというのは、本当だったんだ」
「だがまだ、阻止する手立てがある。俺は、ジャーナリストだ」
「どうして戦争がなくならないのかしら。人殺しがまかり通っているなんて」
「戦争は、儲かるんだよ。武器商人にとっては勿論のこと、政府にとっても、表向きは平和を口にしていても、武器商人からもたらせられる莫大な利益がある。しかも雇用が生まれる。経済立て直しには、もってこいだ。だからほとんどの国は、どこかの紛争を後押ししたがる。自国に影響が及ばない程度に。戦争というものは社会にとって、必要悪なんだ」
「男にとっては、お金や名誉、地位など、目の前の欲望を達成することが生きがいなんでしょう? でも女は違う。特に子どもを持つ女性はね、いつも子どもの未来に目を向けているのよ。中林さん、日本が戦争に巻き込まれないで済む手立てって?」
「現状を伝えることだ。すべての人間が無気力になったわけではない。我々のように。今この国で、何が生じているのかを、世界の現状を、正しく認識させることが出来れば・・・まだ、6年ある」