きらめき
「仕事のついでに、昔から気になっていたことがあって、青森の六ケ所町に寄ったんです」
「ああ、原子力廃棄物処分場を建設しているところですね。20年以上もかけていますよねぇ、中断していた、とも聞いていますが。そこは、村から町になっていたんですか」
「泊まったホテルのレストランで、気になる話が耳に飛び込んできて」
「どんな?」
「地上から40メートル下の部分に、巨大都市を作っている。そのことは、前から推測していました」
「ち、ちょっと待って。巨大都市? 地下40メートルに?」
仁は視線を当てたまま、ゆっくりと相づちを打った。
「そこで生活する人のために必要な工場が、水生成などですが。そしてご存じかも知れませんが、小麦生産に群馬フラワー農工、つまり、ここが担うことになっているようです。それを話していた人物が、ここの社長近藤と食糧庁の犬山、という人です。実はホテルの人に嘘をついて、名前を聞き出したんだ」
美穂は口を開けたまま、言葉が出てこなかった。宙に眼球を迷わせ、ようやくにして言った言葉。
「知らなかった、そんなこと・・・それで、確認を取りに来たってわけね・・・あなた、『中性子線被曝』という小説、知ってる?」
今度は仁が、宙に眼球を漂わせた。しかし、きっぱりと言った。
「いいえ、知りません。どんな内容でしょう」
美穂はパソコンを起動させ、それを示した。
「短いからすぐに読める。読んでごらんなさい。私もある人から教えられたの」
仁はその小説を知っていた。子供の頃から、SF小説を夢中になって読んだ。ジュール・ヴェルヌの描く世界に陶酔し、自分でも真似ごと程度に書いて小説投稿サイトに挙げた。その頃に出会ったのが、薔薇乃かおり。ボーイズラブを書いている彼女の作品を読むことはなかったのだが、突如SF掌編としてアップした作品を読んで、びっくりした。そこに描かれていた徳沢には、自分もいた。ヘリコプターが飛んできたのも知っている。だが、詳細は知らなかった。
しばらくしてからさらにアップされたSF小説は、執筆中のままで止まっていた。そこで、メッセージを送った。
[続きを書かないのですか? 楽しみにしています]
返事が来た。
[読んでくださりありがとうございます。科学は苦手で、どういうふうに話を進めたらよいのか分からなくて、削除しようと思っていたところです]
[このままでいいので置いておいてください。わがまま言って申し訳ありません]
こんなやり取りをした。そして念のため、それらをコピーしておいたのである。
仁はアクセス数を見た。思った通り、最近再び読まれ始めていた。