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きらめき

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 これといった方法が見つからないまま、時間ばかりがむなしく過ぎ去っていく。中林からは、無気力な人々は大都市圏に広がりを見せ始めているらしい、という情報が入った。
 冷え込みが厳しい季節になっていた。風が、美穂の羽毛コートの裾をまくしあげんばかりに、渦巻くように吹き付けていた。工場の敷地に入ろうと閉じられた門に近づくと、そこから急いで立ち去ろうとする若者とすれ違った。門内を覗き見ていたように思ったので、その背中に声をかけた。
「何か、ご用でしたか?」
 背がこわばり一瞬躊躇した様子を見せたが、立ち止まって振り返ると話しかけてきた。
「この工場の方ですか?」
「ええ、あなたは?」
「この工場は、全国にあるのでしょうか?」
 何を聞き出そうとしているのか、その目的が分からなかったが、思いつめた様子の若者を見て、思わず切り出していた。
「あのぅ、私の部屋に一緒に来ませんか。ここでは、あまり話が出来ないんです。盗聴されたり監視されたりしていますから。おそらく、あなたが門内を覗いていた映像が残っていることでしょうし・・・やばいんじゃ、ありません?」
 美穂は自動認証開閉装置に掌をかざし、脇にある通用門の方を押し開くと、自分の研究室まで若者を誘導して行った。


「さて、お話を伺いましょうか。まずは自己紹介してください」
 コーヒーを入れたカップを彼に勧めて、向かい合って座った。部屋には他にいない。自分の代わりに、小麦の生育状態をチェックしに行ってもらっている。1時間は戻ってこないだろう。ここへは、直通エレベーターで上がって来ている。
「入れてくださり、ありがとうございます。中島仁、といいます。家は名古屋にあって、旅行業を営んでいます。主に宇宙旅行ですが」
「宇宙旅行ですって! すごい、行ってみたいなぁ」


 中島宇宙旅行クラブは秋田県能代にロケット発射場を持ち、地球の無重力圏体験をしようという乗客を運ぶだけでなく、定期的に月旅行も計画実施していた。38歳になる中島仁は、父の起こした会社でパイロットをしているが、ロケット開発に携わると共に、宇宙物理学者に付いて観測を手伝ってもいる。特に、地球型惑星の探索、である。

作品名:きらめき 作家名:健忘真実