きらめき
美穂は、幼馴染の米沢博文に会うことにした。東京でジャーナリストとして働いている、と聞いていたからである。東京にはほとんど出てくることはないが、米沢はきっと忙しいに違いないと思い、勤務先の配信社が入っている、ニュースカイビルの入口で待ち合わせた。
「ヒロちゃん!」
米沢がエレベーターから姿を現すと、すかさず手を振って合図を送った。
「よっ」と、軽く手を上げてにこやかにして足早にやって来ると、「そこの店に行こうっか」と率先して歩いて行った。
お互いの近況を交換し、軽く昔話で笑い合った後、「ヒロちゃん、頼まれてほしいことがあるの」と言って、強い視線を注いだ。
「なんだよっ、結婚してくれ、ってのか?」
軽く笑ってから表情を引き締めた。
「まじめで重要なことなの。絶対に秘密・・・最近、東京の人たちに変化はない?」
「いっきなり難しい質問だな。俺は気にしていないんだけどさ、先輩から、お前、最近気力が劣ってるぞ、って言われるっけど・・・さあて、どうなんだろな」
「そういえばヒロちゃん、子どもの頃、ラーメンが好きだったね。今でもよく食べるの?」
「もっちろん。ラーメンなしの生活なんぞ、考えられねェ」
「ねっ、ヒロちゃん、その先輩に会えないかなぁ」
「会いたいのか? ひっさし振りのデートなんだぞ」
「お願い、ねっ」
美穂は手を合わせて、拝む格好をした。
初対面の中林に美穂は、他に相談相手もいないことから、口外しないことを約束させて語りだした。
ラーメンの原料である小麦粉に薬品が混入されているらしい、ということ。
誰が?・・・食糧庁情報管理局犬山参事官の依頼で社長が。ただし、現場を見たわけではない。
どんな薬品?・・・XD16といって、脳内のドーパミンの作用を阻害して情動の働きを悪くし、例えば無気力無感動を引き起こしやすくする作用がある。
なんのために?・・・わからない。
「最近感じたことだけど、米沢を含めて、警視庁の連中など、確かにやる気を無くしている、というか、批判的に物事を考えるということをしなくなっているようだ。ん? 奴らもよく、ラーメン食ってるな」
「わが社の出荷先は関東一円、そして東京近辺で売られているラーメンには、原料として使われていることを突き止めました。他社の状況はどうなっているのか分かりませんが、頻度からみて、まだ実験段階ではないかと考えています」
「政府が関与しているのかということ、目的など、あなたからは調査できないのでしょうか。例えば、盗聴という手段で」
「社内のセキュリティは完ぺきなんです。でも少なくとも、目的は知りたいですよね。そして、ラーメンを食べるな、というキャンペーンなどを」
「今の段階では無理です。もっと確定した情報でないと、あなたが逮捕されかねない」
「そうですね。何か方法を考えてみます」
「十分過ぎるほど気を付けてください。私の方は、食糧庁に探りを入れてみましょう。情報をありがとう」