きらめき
群馬県館林市駅近くのファミリーレストランで、美穂は友人の吉沢アオイと会って、実験結果の報告を聞いていた。いかなる文書としても残してはいけない、と考えたからである。
「せっかくの休みにごめんね。こんな所まで来てもらって、ほんとにありがとう。しかも残業して、こっそり分析してくれたんでしょう?」
「そんなことはどうでもいいのよ。ねぇ美穂、この試料、どうやって手に入れたのよ。普通、手に入れることは困難な代物よ。使い方によっては、毒になる」
「どういうこと? 白い粉末の正体はなんだったの?」
「XD16。前頭前野のすぐ後ろにある大脳基底核に側坐核というのがあって、ドーパミンを分泌しているの。そのドーパミンの作用を阻害して、情動の働きを悪くする。そうね、例えば、無気力無感動を引き起こしやすくするわけ。働きの強い鎮静剤、てところかしら。凶暴な人に投与して落ち着かせるために、開発されたの」
美穂はうつむいて、テーブルの下で両手を強く握りしめた。
「ねぇ、どうして美穂が持っているのか、教えてくれない?」
「ごめん、今は、言えない。それより、料理が来たわ、お腹が空いたし、さ、食べよアオイ。デザートも遠慮しないでね、高いのを注文していいから。ファミレスなのでしれてるけど」
美穂は震える手でフォークとナイフを取り上げ運ばれてきたステーキを切り分けると、アオイに動揺を勘繰られないように、食欲旺盛であるかのようにして食べた。