きらめき
「ボス、22年前に穂高山中で放射能被曝をしたという話、聞いた覚えはありませんか? ウェブでは、見つけることが出来ませんでしたが」
「ウ〜ん、放射能被曝はいろいろあったからなぁ、どうだろ」
古川主幹は中林の話を聞いて、窓から空を見上げて考え込んだ。
「あったかもしれんな。だが放射能事故はその当時、詳しくは報じられなかったと思う。うやむやのうちに忘れ去られていったんじゃないかな。22年前といえばぁ、2013年か・・・富士山が世界遺産に登録されたり、東京オリンピックが決まって国中が浮かれていた頃だろ。都合の悪いことは、見ない・聞かない・考えない、そして忘れる時代だった」
「今もそうかもしれませんけどね。そういえば、米沢ばかりではなく警視庁の連中も、なんかぁ、やる気が感じられなくなってきているんですよね」
携帯端末に見入っていた古川が、顔を上げた。
「薔薇乃かおり、という人物はド素人作家だね・・・『中性子線被曝』、小説になっていない、単なる報告書といった感じだが、『終末戦争』の導入部、まるで今のことを書いているようだ。不思議だ。ほんとに時空の歪みなんぞ、生じたのかねぇ。この人物、予知能力でも持っていたのかねぇ、不思議だ」
中林の疑問は無視された。