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きらめき

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 警視庁サイバー捜査課では、防衛省から一時預かったパソコンから犯人の割り出しを急いでいたが、成果が上がっていなかった。
「防弾ホスティング(匿名でサーバーを借り、IPアドレスを偽装)が今じゃあたりまえですから、犯人を見つけ出すことなんか、出来るはずありませんよ。しかし、別の角度からも捜査に当たっておりますから」
 中林と米沢はサイバー捜査課の定例記者会見に顔を見せ、捜査課長の今の発表に、中林が疑問を投げかけた。
「最近の捜査は、甘いんじゃないですか。行き詰まるとすぐに打ちきっているように思われるのですが。もっと食らいついてもらわないと、ターゲットは我々国民であり、すでに多くの犠牲者が出ているんですよ。犯人は個人なのか組織なのか、あるいは国家、という可能性もあるわけですからね」
「新名神高速道と東海道新幹線のスピードオーバーによる事故のことを指しているのでしょうが、コンピューターの不具合によるものと断定してきましたが、サイバー攻撃を受けたことによるものかどうかについては、この前の脅迫メールにより疑いをもたれたということであって、今回の犯人がそれらの事故に便乗した、ということも考えられるわけでして・・・そのぅですね、我々は慎重な裏付け捜査をもって、事に当たらねばならないわけでして」
「いい加減にしてください!」


「ま、ま、JNAさん、声を荒げずに。課長、先ほどおっしゃられた、別の角度からの捜査、というのは、その内容と進捗状況は教えてもらえるんでしょうね」
「脅迫メールですよ。犯罪捜査に、文章の計量分析、というものがあります。例えば句読点の付け方。出現頻度が多い安定した情報で、無意識にクセが出やすいものです。接続詞なんぞもですが。すでに数十年に渡ってウェブ上の文章を収集分類していますから、ネット上にあげられた文章であれば、ある程度の確度で持って、捜査対象を絞ることが出来るわけです。今のご時世ほとんどの人々が、人生一度はなんらかの文章を載せているわけですから」
 中林が勢いこんで、割り込んだ。
「それで捜査対象が絞られた、と」


 捜査課長は言葉を遮られたために、中林を睨みつけて、続けた。
「2010年から数年間、SNS上で小説を投稿していた人物がいます。自身では小説家を名乗っていますが、名前はまだ伏せておきましょう。『友情はラブ?』などを中心にボーイズラブ、などというものを書いていたわけですよ。ま、非常に短いので読んでみましたが、非常につまらない内容にもかかわらず、懲りずにいくつものサイトに挙げているんですな。ところが、2作のみですが、SFを書いている。そこに、出ていたんですよ」
 捜査課長は、そこに集まっている20人ばかりの人々にぐるりと視線を巡らせてから、胸を反らせた。
「あった! 薔薇乃かおり、ですな」
 端末を操作していた男が言った。
「SFといえば、『中性子線被曝』と『終末戦争』。『終末戦争』は、執筆中、のままで終わってます」
 そこにいた人々が、端末を操作し始めた。
「薔薇乃かおり、という名前はペンネームですが、そこに、この脅迫メールと似た文章が、載っているわけです。最後のほうの部分に」
「では犯人は!」
「ま、ま、その人物は大阪に今も住んでいますが・・・認知症でグループホームに、5年前から。90歳のばあさんですよ」
「じゃぁ、それを読んだ人物だ」
「22年前ですからな、読んでいた連中も、中年ないしはかなり年くってる。ここ10なん年ほどはアクセスもなく、実際アクセス数も小さいことからあまり読まれていなかったのでしょうが、それぞれを追っかけることも出来ない、時代遅れなシステムですからなぁ。という訳で、迷宮入り」
 集まっていた記者たちは囁き合った。
「やる気、ないんじゃないか」


「投稿しているサイトはいくつかありますが、そのひとつで、『中性子線被曝』にコメントを寄せている人物がいますね。平岩隆、ですか」
「もちろん調査しました。本名は伏せておきますが本人いわく、ほぅ、ばれてしまいましたなぁ。何を隠そう、私は亡国のスパイでして、などとほざいてましたがな。なぁあに、現在、神社の総代を務めておりまして、祭りの準備に連日かかりっきりで、自動車と新幹線の事故時には、役員たちとの打ち合わせをしておりました。ハイジャック時には、太極拳の飲み会でした。爺さん婆さんばかりで平日が暇なんですよ。今70歳の爺さんですが太極拳の師範を務めていまして、面倒見がよく特に女性の、といっても銀髪の婦人たちにですが、評判がすこぶる良い。本人はホラー映画などが好きで、今もいろんなサイトに投稿していますわ。裏も取っております。よって完全に、シロです」

作品名:きらめき 作家名:健忘真実