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きらめき

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 防衛省広報室の部屋から見えるのは、青い空を背景に従え林立しているビル群ばかり。そこにある建造物の窓は残光を赤く反射して、内部を覗き見ることは出来ない。
 あれらのビルの中に、人間はいるのだろうか。このビルに飛行機が激突するようなことになれば、彼らはパニックになるだろう。
 今この部屋にいる人たちは、忙しく情報のやり取りをしているはずだが、静寂の中でキーを叩く音がするだけである。
 ようやく席を立った男に駆け寄って、いったい何が起こっているのかを問い詰めた。彼とは、飲み屋でよく一緒になる。
 彼は、やれやれ、といった表情で周囲に目を配り、彼の椅子を引いて、座れ、と手で示すと、空いている椅子を引き寄せて腰かけた。彼が操作して示した、パソコンの画面を注視する。目が釘付けとなり、唇をかみしめた。そして、恐ろしさに体が震え始めた。
 そこには、こう記されていた。


諸君、一連のゲームを楽しんでもらえているだろうか。いや、諸君がゲームに参加していたなどということには、気づいていなかったのかもしれない。
新名神高速道路での、自動車大破事故。東海道新幹線のフルスピードによる、脱線事故。いずれも、これから起こるであろう出来事の、プロローグにすぎなかったのだ。
現在の舞台は、那覇空港を16時50分に発した、MRJ90ER42便、である。
搭載されているコンピューターは、乗っ取った。
我々の意のまま、である。そして諸君の意によって、その運命は決まる。同時に諸君の運命も、だ。
我々の最終目標は、日本国の制覇、である。
手始めとして、我らの力をお見せしておかなければなるまい、と思ったわけだ。
20時に当機は、官庁が入っている東京港区のニュースカイビルに、突入する。その時には、燃料が少なくなっている事が、君たちにとっては幸いなり。
お手並みを楽しみにしている。幸運を、祈る(笑)



 その年2035年の世界は、人口は100億人を突破し、海面上昇により居住可能面積は大きく減少。内陸部で砂漠化が進む一方、洪水が頻繁に発生する地域も多くあった。清浄な水が得られず、また食糧生産が出来ない国々が増えていたのである。
 そんな中日本では、海水の浸食で失った土地は多いが、人口はおよそ6000万人で安定していた。沿岸部では海上交通が発達し、又お得意の技術力で、国土を浸食から、長い堤防によって防護していた。
 農作物はすべて工場生産され、畜産・水産も徹底した情報管理のもとで、食糧自給率は100パーセント。エネルギー供給は太陽光と、地中深く掘削して得た溶岩熱による水蒸気発電。水蒸気発電に用いる海水は無尽蔵にあり、火山国であるがゆえに、溶岩熱はいたるところから入手できた。
 何不自由なく生活できる日本で暮らす人々の状況は、世界中のほとんどの人々にとって、羨望の的になっていたのである。内戦はなく、他国と国境を接しておらずこれといった紛争のない日本に、移住を希望する者たちがあふれ、日本政府はゆるやかな鎖国に踏み切っていた。

作品名:きらめき 作家名:健忘真実