数式使いの解答~第二章 雪と槍兵~
《第三幕》支配者
あくる朝、三人の姿は雪山の中にあった。昨晩かわした会話のとおり、雪山の調査をするためだ。
「それでヘルメス、俺たちは今どこに向かっているんだ? なんの当てもなくしらみつぶしに探しているわけじゃないだろ?」
「ああ、オレの記憶が正しければ、この先に山の主がいるはずだ」
「山の主?」
ミリアが不思議そうに首をかしげる。
「このあたり一帯を仕切っている、野生生物たちの王だ。巨大な白熊で、ジャベリンペンギンの群れすら食い散らかせる化け物だ。……とはいえ、頭は悪くない。人語も解するし、人間が相手ならそれなりの対応を見せる奴だ。無意味に怖がる必要はない。――お、しゃべってる間に着いたな。そこだ」
ヘルメスが言いながら指したのは、大きな洞穴。天然の物か、人口の物かはわからないが、これほど大きな物はほとんどないだろう。
三人は連れ立ってその中へと入った。そこに待っていたのは、巨大な白い体躯の熊、…………その亡骸だった。
「なッ!?」
ヘルメスが驚きのあまり声を漏らす。
その死体は、あまりにも圧倒的だったのだ。
死体は、丸焼きにされていた。少しの傷もなく、完全に燃焼し、炭化している。
「どうやったらこんなことが……」
ヘルメスがそう呟いたのに対し、ローレンツが、
「人、か?」
「これを、人間がやったって言うの?」
ミリアの問いに、
「ああ。雪山で、しかもこんな大きなものを燃やすには、数式じゃないと不可能だ。数式は、人にしか使えないはずだが……」
そう、ローレンツが答えた。
逡巡するような静寂が、ひとときだけ三人を包む。
それぞれ顔を上げ、雪山の頂上に視線を送った。どこか、覚悟するような。
作品名:数式使いの解答~第二章 雪と槍兵~ 作家名:空言縁