魔法使い、旅に出る
3
実は犬の家に辿り着く前に二度ワープ先を間違えたかぴー。
方向音痴大発揮である。
二度とも山だの河原だので軽装だったのが難だったのか服が「アナタ何日洗濯してないの?」な有り様に。
「えーと、とりあえずいらっしゃい。無事着いて良かった」
「「かぴちゃんいらっしゃーい!」」
外に出てきた犬たちはにこやかにかぴーを労った。
「それにしても服、凄いことになってるね」
「あははーはははぁ。うん。ちょっとね。一休殿もさよっちも久しぶり」
力なく笑うかぴーに犬は首を傾げたが敢えて触れなかった。
「ああ!」
きゃいきゃいとはしゃいでいた子供たちだったが、さよは庭に異常を見つけ悲鳴を上げた。
「お花が!」
ギョッと振り返るかぴー。
まさか自分の落ちた場所だろうか? と焦る。
「あらら」
犬はあまり動じてない様子だったがかぴーは焦りまくりでさよに近づいた。
「どどど!?」
「お花が……お花が……」
見ると小さなひまわりがくたっと横倒しになっていた。
「ひまわり?」
ひまわりは確か夏の花では? 今は秋に差し掛かっている気が。
「お花、可哀想」
えっえぐっとしゃくるさよ。
多くの大人がそうであるようにかぴーも泣く子には適わない。
慌てひまわりの救出作業を始めた。
幸い茎は折れてなかったので添え木をすればなんとかなりそうな気配にかぴーは安堵した。
「だ、大丈夫! さよっち、なんか棒を持ってきて?」
そのやりとりをニヤニヤ眺めていた犬に一休が話しかけた。
「おかーさん」
「んー?」
「かぴちゃんの頭の上に乗っかってるピンクのデカいの何?」
息子の質問に犬は目を見開いた。
「あら。見えてんの?」
犬は子供たちが怖がったのでは厄介だったのでサクッヤー姫神には目礼で挨拶をしていたのだった。
「一休が見えてるあのピンクの人はね、サクッヤー姫神様って言う名前の神様なのよ」
「神様!!」
目をまん丸にして一休はカチンコチンと固まった。
一休、人生初の神様見ちゃったよ! 体験である。
「おーい? 一休?」
カチコチに固まった息子に苦笑い。
理解して飲み込むには多少時間が掛かりそうである。
さもありなん、自分だって初めて見たときは驚き固まったものだ。
知恵熱出さなきゃいいけど、と思いながら犬はかぴーに声を掛けた。
「どぉ?」
「んー、大丈夫っぽい?」
「っぽいかよ~」
犬はクスクス笑った。
一生懸命ひまわりを植え直してるかぴーは、ひまわりってさぁ、と言った。
「夏の花じゃないの?」
「あー、うん。それねぇ、さよっちの練習用なのよ」
どうも植物を育てるのが得意らしいこと、歌を歌って育てること、季節はあまり関係ないらしいこと、そのひまわりが咲いて成功率が70%ぐらいになったこと。
少々季節外れの花の訳を犬は説明した。
「凄いじゃん! さすが!」
「凄いよねー。そんなわけで我が家ハーブには困ってないよ」
「凄いなぁさよっちは。あ、そだ」
しきりに凄いを連発したかぴーは成功率七割でピカーンと閃いた。
「あ、ねぇ、野菜は?」
「野菜?」
「だって米とか野菜も出来たらすごくね?」
「野菜は試してないなぁ」
野菜、野菜どうかな~。
「まぁイチゴが出来たからイケるとは思うよ」
大人達がそんな話をしている中、さよは小枝を持って走って来た。
「これでいい?」
「お、ありがとう☆」
小さなひまわりに添え木をする。
「さくサマ、わりぃんだけど雨降らせて」
『はー!?』
「ちょっと休憩しよーよー。おばちゃん疲れちゃったよー」
『体力無さ過ぎない? ねぇ?』
だからHP50だって言っただろうとかぴーはボヤいた。
『仕方ないわね。少しだけよ』
サクッヤー姫神がポンと手を叩いて雨雲を呼ぶ。
見えない誰かと話をするかぴーにさよは目を丸くする。
「おかーさん」
「んー?」
「かぴちゃんは誰とお話してるの?」
なんか女の人の声がするぅと少々及び腰。
「あらアンタは聞こえてるの?」
少々びっくりな母を尻目にかぴーを凝視するさよは段々涙目になる。
「かぴちゃんの頭の上にね、サクッヤー姫神様って言う神様がいらっしゃるのよ。かぴちゃんはサクッヤー姫神様とお話してるの」
「神様!!」
半ベソでさよもカチンコチンと固まった。
さよ、人生初の神様の声聞いちゃったよ! 体験である。
一休と同じカチコチ具合に双子よねぇと感心する。
こちらも理解して飲み込むには多少時間が掛かりそうである。
「犬さーん、雨宿りさせて~」
「はいよ、中入りなよ。服貸すからさ」
固まった子供たちをずりずり引き摺って二人は家に入ったのだった。