現想怪路 第一話「伝心交錯」
四
僕らの高校は2つの棟に分かれている。
主に文系のクラスや音楽・芸術系のクラスのある東棟と、理系のクラスとスポーツ系クラスのある西棟である。
僕らの所属するSF同好会は西棟の3階にある。
部室に入った僕たちは、とりあえず部屋の中にあるソファーに腰掛けた。
僕ら以外にはまだ誰も部室にいる様子はない。
「まだ誰も来てないのかな?」
誰もいないのも無理はない。
僕らがこのクラブに入ってきてから、部活動としてきっちりと集まって何かをしたことがない。
お互い顔の知らない部員もいるだろう。
つまり、ここに来てもただ駄弁っているばかりで、何もしないから誰が来るかなんてわからないのだ。
僕ら―少なくとも僕は―自分の家にいたら勉強を催促されるだろうから逃げてきた、ってところか。
「この様子じゃそうだろうな。まぁ来ても来なくても変わんないようなもんだしな。」
「ふぅん・・・。」
由理香は不満げな表情を浮かべた。
いつものことだろうに、そんなことはわかりきっていることだ。
「じゃあさっきまで私を待たせていた罰として―」
由理香が何かを言い始めたその時、部室の扉を開ける音がした。
「・・・っ!」
「朝早くから物好きな部員もいるものだ。」
「・・・げっ。深見先生じゃないですか。」
白衣を着こなしているこの女性は、僕らのSF同好会の顧問である深見鞘先生だ。
彼女は学校で物理を教えていて、少しばかり変人として有名だ。
なんでも学校に自分の研究室を構えているとか。
この人には謎が多い。
だが僕らにこんな自由な居場所を提供してくれている人だから、申し訳程度の感謝はしている。
「なんだその顔は・・・。そうか、私は邪魔者だったか。はっはっは。」
「そんなんじゃありませんよ深見先生。」
由理香はよくわからないが焦っている様子だ。
なんの話をしているのだろう。
まぁそれは置いておいて。
俺にとって深見先生が来てくれたのはナイスタイミングだった。
今朝の「見間違い」のことを僕はまだ不可思議に思っていた。
深見先生は変人で名が知られているが、知識人あるいは情報通としても有名で、深見先生の知識はまるで辞書のようだと言われるほどだ。
だから僕は未だ違和感をぬぐいきれない「見間違い」について、そんな異名をもつ深見先生に尋ねることにしたのだ。
作品名:現想怪路 第一話「伝心交錯」 作家名:或宮とりえ