現想怪路 第一話「伝心交錯」
二
夏休みが始まった。
高校生の夏休みというと、青春真っ盛りな甘酸っぱい体験をしたり、あるいはスポーツに打ち込んだり、中には自分の趣味に没頭する人もいるだろう。
僕の通っている高校では夏休みが約1ヶ月しかないので、小学校や中学校の時よりも損な気分はするが、滅多にない長い休みなので大切に使おうと心に決めた。
そんな幸せな休暇の最初の日だ。ゆっくりしよう。
僕がそんな事を考えながら家のリビングで朝の紅茶を飲んでいると、僕のスマートフォンから軽快な音楽が鳴り出した。
「誰だよ、こんなときに・・・。なんだ、由理香からか。」
僕の同級生で、僕の所属しているSF同好会の部員(同好会と銘打ってはいるが正式には部)でもある実草由理香からの連絡だ。
ついこの前までみんなメールを使っていたのに、最近ではスマートフォンに内蔵できるソーシャルアプリケーションを使ってみんなは連絡を取り合っている。
僕も人の流れには置いていかれたくないのでしぶしぶそのアプリをインストールして使っているという訳だ。
誰だよと言ってはみたが由理香が僕を部活に行くように誘うのはいつものことなので、形式上言ってみただけである。
「えっと・・・10時に校門に集合か。由理香にしては遅い時間設定だな。」
彼女はせっかちで気が早く、いつも通りなら休日は9時に集合を持ちかけてくるところだ。
今日は何か用事があったのだろうか。
時計を見ると時刻は8時40分を指している。
今から準備しなくも十分時間はある。
いつもみたいにギリギリになって焦らなくても間に合うだろう。
僕はそんな余裕を持ちながら、少し冷えた紅茶を飲み干した。
作品名:現想怪路 第一話「伝心交錯」 作家名:或宮とりえ