終わる世界
世界はどのようにして滅びるか? 何万人もの記憶がある分、色々な憶測がある。隕石が落ちてきて滅びるとか、未知の病で滅びるとか、世界規模の戦争が起こって滅びるとか。それは人類の終焉であって世界の終焉ではないけど、きっと世界の終焉も壮大な大破局(カタストロフィ)であるのだろうと思っていた。
本当は違う。世界の終焉は静かなのだ。
前兆らしい前兆もなくそれは始まっていた。おいおい心の準備ぐらいさせてくれよ、と思わないでもなかった。それぐらい静かで、唐突だった。
世界が、消えていく。織り上げた布がほどけるように、風の前に置かれた砂絵のように、生き物という生き物がいなくなった空が、大地が、塵のように細かくなって消えていく。
俺はその現象を、あっけにとられながら見つめていた。瞬きすら忘れて、ひょっとしたら呼吸すらも忘れていたかもしれない。『記憶』にあるほど青くない空も、生き物の気配のない枯れた大地も、生まれた時から慣れ親しんできたものだ。それが消えていくのだから、驚いて当然じゃないか。
けれど、恐怖はなかった。むしろ綺麗だとさえ思った。ゆっくりとほどけていく世界。静謐で、どこか神秘的で。これが“終わり”だとは信じられないほどだった。
やがて、世界は俺一人を残して完全に消失した。
後に残ったのは、真っ暗闇だけだった。