ビー玉
俺は美術室に入ろうとするが無理だった。なぜなら美術担当の八田先生という女の先生が立ち往生の姿でドアの前で待っていた。これから始まる言葉は多分「なぜ遅れたのですか!?」と怒鳴りつけることだろう。俺は困った顔を作った昂を見る。きっと相手もなんて言い訳しようか考えているのだろう。あるはずがなかった額の汗が電灯で光っている。
俺らは八田先生に近づき、言い訳を言おうとしたら
「なぜ遅れたのですか!?」
と、俺の予想通り怒鳴った。俺はこれから説教タイムが始まるのだろうと思い、ため息をつく。それは昂も同じだった。彼もため息を1つつく。だが、その説教タイムがある人によってなくなった。
「すいません先生。彼が送れたのは私のせいです。彼がどこからか転がっていたビー玉を彼が拾い上げようとしたら私が彼の手を踏み、彼は保健室に行ったから彼らが遅れたのです」
なんだか嘘臭ことを言う奴は。その声の主は顔を見るまでわからなかった。俺は体を声のするほうへと向ける。俺はその人を見たとき、なんでと思った。昂も同じ反応をし、俺らは言葉を失った。彼女であった。俺がぶつかり、尻もちした彼女。俺がビー玉を拾おうとして同時にビー玉を掴み、手がちょっと触れてしまった彼女であった。
八田先生は彼女のほうに向きを変えると、その彼女を怒る。・・・思いきや教室へはいって行った。
「よかったわね。お説教されなくて」
と彼女は横目で教室に入りながら言う。それに続き、俺らも教室に入る。
「なんで俺らを助けた?俺のこと・・・男子のこと嫌いじゃないのかよ?」
運よく隣の席なので勇気を振り絞り聞いてみる。すると彼女の動作が一瞬ピタッと止まる。
「別に。私の授業時間が短くなるから。それだけだから」
俺を見ず冷たい声で言う。言い終えるとまた黙々と先生に言われた作業をする。髪を耳にかけ、彼女は人形のように同じ動作を繰り返す。俺は見惚れていたのか、彼女のことを横目で見ていた。さすがに堂々と正面から見る度胸は俺にはない。
だが、彼女は気づいていたのか「何?」とまた俺を見ずに言う。俺は慌てて「な、何でもない!」と言った。それもこの教室全員に聞こえるくらいな声で。
彼女は「そう」と興味のない返事。
他の男どもは以外にも罵声の声を言いそうだったが、聞こえてこない。だが先生が俺を憤怒の目で見つめてきた。次に言葉はもうわかる。
「やる気ないなら出てきなさい!」
俺の予想の声と八田先生の声がシンクロする。