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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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どうってことないさ・・ (3)

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まったく、格好悪いったらありゃしない・・






   日々 の 暮らし


なんだか
毎日が単調に過ぎて行く。

夜明け、少しだけ寒さを感じ目覚める。
そして、
外に出て、家の前で空を見上げる。

来る日も来る日も、同じ景色の中で、
太っちょ神父の予定を聞き、
淡々とその手伝いをする。

ドン先生は、近くのハイ・スクールに通い、
大きな体を揺すりながら、大きな声で生徒たちの笑いを誘う。

結婚一か月を過ぎたチャイリン夫婦は、新しい住まいの整理も終えて、
少しは落ち着いて来た様だ。

みんな、それぞれ言いたい事は有るけれど、
まあ、これを平和というのだろうな・・

週末、何を血迷ったのか、
俺は、籠にいっぱいのジャガイモと、牛肉のミンチを買った。

まだ日本に居た頃、それもずっとずっと幼い時、
今はもうこの世に居ないばあちゃんが、俺に色々話し掛けながら作ってくれたコロッケを食べたくなった・・

「仕事をしない者は、犯罪者と同じなんだよ。」

「隣のよっちゃんを見てごらん。何も覚える事が出来ない、ちょいと頭が弱いけど、毎日文句ひとつ言わないで野良仕事を続けている。偉そうな事を言って、威張って歩いている何処かの議員さんより遥かに立派だ。」

そんな言葉を聞きながら、小さな手で、潰したジャガイモをコロッケの形に形作った。

考えてみれば、
半端者の俺にだって、その時その時、必ず一人は味方が居た。

俺はちっとも悪くないのに、叔父の逆鱗に触れ、土蔵に閉じ込められ、
どうしても納得出来ず悔しくて、土蔵の中の物を叩き壊した。

叔父は、自分のベルトで俺を・・

もうこれで死ぬのかなと思ったあの時、
隣のよっちゃんのオヤジさんが、身体を張って助けてくれたなあ・・

そんな事を思い出しながら、
コロッケをいっぱい作った。

「こんなに作ってどうするの?」
って聞かれても、
別に・・
食べたいからでもあるが、
ばあちゃんと話がしたくて・・

何時の間にかこんなに出来ちまった・・
だから、
チャイリンの旦那に無理やり食べさせた。

その日は、
奴は仕事もせずに、唸りながら寝ていた。

おかげで、俺は、奴の仕事までしなけりゃならなかった。

太っちょ神父は、
「野菜は嫌いだ・・」
などと、
訳の分からない事を言い、本当に不味そうな顔をして二~三個しか食べなかった。

だから、作り過ぎた所為もあるけれど、
俺は、余ったコロッケを籠に入れて売り歩いた。

臨時収入だ・・

「日本のコロッケという食べ物だ。味は保証しないけど買っとくれ~~・・」






   その前 に 人間?


また暑い夏がやって来る。
海からの風は、たっぷりと湿気を含んで、涼を取るどころではない。

そんな中、
晴れやかな顔をして、

「行って来るね。」 と・・

チャイリン夫婦が言う。
見れば、
旦那の背中には、大きなリュック。
そして、
両手には、大きな袋。
(ざまあ見ろ。こいつ、もうチャイリンの尻に敷かれている。)

今日から暫く、
実家に里帰りだ。
旦那は、式に出席できなかった者たちへの、初めての顔見せに・・
だから、

彼等が出掛けた後は、
掃除、洗濯、食事の支度と忙しい・・筈だった。

「お兄ちゃん・・遊ぼ・・・」

河の向こうに住むチーターが、
母親の手を身体いっぱいで曳きながら・・

遠慮気味に、頭を下げる母親。
(まあ、いいか・・洗濯ったって、俺のものだけだし、掃除なんか何日しなくても構わない。)

俺は、チーターと凧揚げを始めた。

母親は、太っちょと何か話している様だ。
そして、
すぐに太っちょが消えた後、俺の傍に来て、

「今日から、姉さんたちが帰るまで、食事を作ります。」
だと・・?

聞けば、チャイリンと旦那が、前もって話していたらしい。
それに、
太っちょも了解していたそうだ。
(奴め、俺の料理じゃ気に入らないのか・・)

せっかく自由に出来ると思ったのに・・

「俺の料理で我慢してよ。フィリピン料理にするから・・」
と言ったが、
太っちょは、

「・・・・・」
「何だよ・・」
「・・・」
「何か言いなよ・・」
「チーターが・・それに、エミー(母親)も、お前の事、良いと思っているそうだ。」
「どういう意味・・・!」
「どうした?・・言いかけて止めるな。」
「・・図ったな!」
「何の事だ・・私は、知らんぞ。」
「あんた、それでも神父か!」
「神父である前に、人間だ。」
「汚ねえぞっ・・!」
「兎に角、今日から二週間、あの親子は此処で暮らす。」
「・・・俺は、何処で寝れば良いんだ・・」

奴め、返事もしないで山の方に・・

って事は、今日から数日帰らないって事か・・
これは、

みんなで前もって話が出来てたんだ・・

犬や猫じゃあるまいし、
良いと思っているの一言でどうなるものでもないだろう。

「あの・・洗濯物は・・?」
「お兄ちゃん、・・凧揚げは・・?」

ちょっと待ってくれ・・
太っちょの家は鍵が掛かって・・残るは、ドン先生の部屋と俺の家・・

・・また、暫く床にマットを敷いて寝るのかよ・・

俺は、ドン先生に助けを求めた。

「暫く、部屋を交換してよ。」 と

先生は、明らかにすべて知っている顔で、
すべったような顔をして、

「嫌だね。わたしゃ、部屋が変わると眠れないんだよ。」
と、けんもほろろに・・
そして、

「もう二週間分の手当を払っているそうだよ。それとも、あんた、あの親子の儲けをふいにするのかい?」

困り果てている処に、また、

「あの・・洗濯物・・・」
そして、
「凧揚げは・・?」






   驕り 我儘


この時期には珍しい長時間の小雨。
 
窓越しに大きなナンカの木から落ちる雫を見ながら、
時折吹く風に雲行きを任せる。

こんな日でも、
漁師たちは、小舟を操って漁に出る。
そして、
僅かばかり漁れた、20センチ足らずのハサハサを売り歩く。

太っちょが、俺を置き去りにしてから、
俺は、
何時も使っている部屋を、エミー親子に譲り、
隣の部屋の床で寝ている、雨だもの・・

食事と洗濯をするからと、
エミー親子が来てくれたのは有り難いが・・
それに、

「お兄ちゃん、遊ぼ・・」
というチーターの事も嫌いじゃないが・・

俺が、特に好いてる訳じゃない女性と二人だけで、
チーターが寝床に就いた後、

一体どんな話をすれば良いんだ・・

俺の家にはテレビなど無い。
だから、
唯一の時間潰しは、カセット・テープやCDで歌を聴くくらいしかない。

「・・ああ、これ、日本でよく歌った・・」
「そう・・?」
「やっぱり、日本の歌が好きなのね。」
「・・そうでもない。・・ただ、歌詞が良く分かるから・・」
「演歌も歌ったの・・。お客さんと一緒に・・」
「そう・・?」
「・・・」
「・・・・・」
「静かな曲が好きなのね。」
「・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・ごめんなさい。わたし・・・」

仕事を終えて、
食事の後、こんな会話が交わされ始めて既に五日目、
エミーは、急に涙声になった。

俺は、ちょいと驚いて彼女を見た。