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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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どうってことないさ・・ (3)

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「客だ・・」

この簡単過ぎる会話の後、
俺を残して、彼は、奥の部屋に姿を消した。

ふと気付けば、
近所の奴らの目、目、そして・・目。
初めてこの国に来た時と同じだ。

「人生を見ろ。」

何時もの様に、この言葉を残して帰ってしまったおっさんを恨んだ。
どうして、俺が、こんな変な奴の処に来なきゃならないんだ・・

スプライトを飲み、テレビを見ながら、
家族の紹介を、おかみさんがする。
そして、夕食。
またテレビの音と小さな子供たちの声。

その日、
いや、次の日も、
いかれたバカ野郎の顔を見る事は無かった。

これが客を持て成す態度かよ・・
来いと言ったのは、お前だろ?
と、目の前に居ない奴に言う。

いくら何でも・・
呆れてものが言えない・・






   心  覗き見


小高い丘、碁盤状に一応整備された通り。

其処に並ぶ小さな家、家・・
子供の声、遠くから聞こえる車のエンジン音。

その一角に、いかれたバカ野郎が住む。
いや、時々顔を出す。

「あの人、分からない人だから・・」

三十前の、子供を抱いた女性が静かに言う。

俺を誘っておいて、
結局一週間、奴は何処かに行った切り。

「あの人との子かい?」

女性は、抱いた子を見ながら、
静かな笑みと共にゆっくりと頷いた。
(生まれたばかりの子を放っといて・・)

よくやるよ、まったく・・
その思いが、つい口を吐いた。

女性はその言葉を聞くと、黙って部屋に消えた。

急に外が騒がしくなる。
三~四人の子供たちが家に駆け込む。

「帰ったよ!・・もうすぐだ。」
(・・・・?)

「お帰り・・」

いかれ野郎は、頷くだけ。

少しは、笑ったらどうだ・・
黙ってドカッとソファーに身体を沈める彼を、思わず知らず睨み付けていた。

「本当は、違うの・・・」

女性は、言った。
彼がシャワーを浴びている時、
相変わらず抱いた子を慈しむ様に眺めながら、

実の父親は、日本の北の端に居ると・・

俺は、いかれ野郎に確かめた。
彼は、黙って俺を睨み付けた。
そして、

「若造・・、二度とそれを言うんじゃない。あの子は、俺とあいつの子だ。」

俺より一回り小さな体が大きく見えた。
怖いほど、彼の心に秘めた何かを感じた。

黙って頭を下げる俺に、彼は、少しだけ頬を緩め、
そのままテレビのドラマに見入った。

結婚を約束して宿した生命。
日本で働く異国人の夢は、
僅かな日数で砕かれた。

いかれ野郎は、腹の虫が治まらない。
仕事を休み、空路北の果てまで・・

出産費用と当座の生活費を貰い受け、
わざわざこの国まで届けたそうな・・
そして、書類に実父として署名。

本物のいかれたバカ野郎。
だが、

この愛想も何もない彼に、
何だかみんな温かい。

「歌ってるんだってな・・?」

珍しく彼から聞いて来た。
頷いて、

「あなたも・・」

そうか、と聞けば、

「趣味・・」
とだけ。
まったく、必要最低限しか話さない。

でも、歌い始めて気付いた。
テクニックとかじゃなくて、
心に響く様に歌える人は、
悪い人じゃない。

すると、
この野郎も善人という事になる。

「あの人の、たった一つの楽しみ・・」

また居なくなった遠くの彼を、追う様な眼差しで、
赤ん坊の母親が呟いた。






   家族


丘の中ほどに建つ家の屋根からは、雨の日も晴れの日も、ラグナ湖が遠望出来る。

「お帰り・・」

この変わらぬお迎えの言葉に、

「ああ、・・」
だけの、
変わらぬ返事。

これが、ひと月も家を空けた者と、迎え入れる者との会話かよ・・

マニラからずっと南、ミンダナオのちょいと北。

セブ島。
その細長い島で苦しむ一人の女性。

常夏の国から真冬の日本へ、
しかも、
有数の豪雪地帯。

女性は、
過労とストレスで病気に・・

家族の元へ帰りはしたが、
寝たり起きたりの闘病生活が始まる。

いかれ野郎は、その女性の元で、
看病したり、生活が立ち行く様に駆け回る。

女性の父親は漁師。
一本釣りで細々と生活を・・

食べるのがやっとだ。
病人を医者に診せる為の余裕など有りはしない。

「どうだった・・?」

「難しいものだな、一本釣りは・・」
(なに言ってんだ・・。その病人は・・?って聞いているんだ!)

まったく話にならない。
それにまた、

「ああ、難しいかい・・そんなに・・」

そう返す家族も大丈夫か・・?

でも、知っている。
いかれ野郎の答え方で、
それ以上話を続けても良いかどうか、
この家族は、知っている。

「もう、長くはないさ・・」

吐き捨てる様に言い、いかれ野郎は、部屋に入った。

自分の不甲斐なさが、娘を病気にしたと悩む漁師。
売れる物は、すべて売った。
だが、薬代は滞るだけ・・

病む者の弟や妹は、学校へも行くのを止めた。

そんな悲劇の家族、珍しくもないけれど、
目の当たりにしては、
いかれ野郎も、放っては帰れなかった。

せめて、家族がこの状況を受け入れるまでと、
とうとうひと月も、家族に付き合った。

彼等と別れる時、
ありがとう、あなたも元気で・・
また、会いましょう

そう言ってくれたと、
天井を見上げながら話す。
その肩に、そっと手を置く女性。

俺は、何も言えなくなった。
どうしてだろう・・

決して立派な事などしていない。
帰って来たら、言いたい放題毒づいて、
さっさと帰ってしまおうと思ったが・・

この訳の分からないままじゃ、帰れない。

この野郎を目の前にして、
家族の、この落ち着き方は、一体どうしてなのか・・






   異種  同源


この国は、暑いか、もの凄く暑いか、のどちらか。

常夏と云えば聞こえは良いが、
住んでいる者たちは、何の因果で此処で済む?
などとは考えないのか・・

その、もの凄く暑い方の季節に、
続いて来る雨季に備えて、

屋根の修理を手伝えってか・・

いいさ、大工仕事は、もうお手の物。
一年の半分は、仕事にあぶれているが、
自称大工の、この家の主人も認めている。

何だか下の方が騒がしい。

この辺りじゃ、とんとお目に掛かれないベンツ。

その中から、
雲をつく様な、ひと目でただ者ではないと分かる大男と、
女ったらしの様な優男が降りる。

どういう取り合わせなんだ・・

遠巻きに様子を窺う、子供たちと暇を持て余す男たち。

「Santiagoの家の者かい?」
(屋根から頷く主人)

外に出たおかみさんが、
車の中を見て、叫び声を上げる。

周りもざわつく。

いかれ野郎の御帰還だ。
だが、
今回は、少し様子が違う。

彼は、一人で動けない。

頭、左腕、左脚、
真っ白い包帯が巻かれている。

俺と主人は、急いで彼の元へ・・

子供を抱きながら、立ち竦む彼のパートナー。

「気を付けろ。・・肋骨もやられている。」

「大丈夫か・・?」

「どう思う・・・?」
(この期に及んで、いかれ野郎のこの応えだ・・)

チョコレート・ヒルで有名なボホール島。

其処で老後を過ごそうと、
一組の夫婦は、土地を手に入れた・・筈だった。

だが、
金を払っただけで、土地は何処にも無い。