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トモの世界

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「両手両足、どこも負傷はしていないようだ。生体情報では、姉さん、脈拍が異常値だな」
「高いのか」
「低すぎる。ここは戦場だ。寝ていたのか」
「かもしれない」
「終わったな」
 私はゆっくりと上体を起こした。
 あたりは穴だらけになっていた。
 敵部隊がいたはずの森はきれいになくなり、火災が起きているのか、もうもうと煙が上がっていた。イルワクの集落はどうやらなんとか形は留めている。村そのものには着弾しなかったようだ。
「また俺たちだけだ」
「そのようだな」
 私は立ち上がろうとする。それを察した南波が腕を引いた。勢い余って、私ははからず、南波の胸に倒れこむ。
「おっと」
 南波が私を支えるように、両手で肩を抱いた。
「しっかりしてくれ。入地准尉」
「すまない」
 南波の顔が近い。煤けていた。CIDSを上げている。私もCIDSを上げた。視界が急に広くなる。
「誰もいない」
「俺がいる。青のマーカーが一つ。あんただけだ」
「私のCIDSにも青のマーカーが一つだった」
「俺だな」
「うん」
 言うと南波は白い歯を見せた。
「蓮見たちは無事のようだ」
「そうだな」
「俺たちも無事のようだ」
「そのようだ」
「姉さん、……帰るぞ」
 南波は低く、しかしはっきりとそう言った。
「国境は、こっちだ」
 私の肩を支えていた両手を解き、南波は一歩踏み出した。
「なぜわかる」
 私が問うと、南波は右手の人差し指で地面を指した。銃は負い紐に任せて背中にまわしていた。
 私は南波が示した地面を見る。
 草がない。
 踏みしめられた土。
 南波は示した指をそのまま腕を伸ばして地平へ向けた。
 道だった。
 一本の、踏み固められた道。
 細いが、消えず、一本、しっかりと草原の向こうへ伸びていく道。起伏を越えて、それは続いていた。
「方角は合ってる。南へ続いてる」
 南波が言う。
 そして、歩き出す。
「さあ、姉さん。行くぜ」
 私も銃を負い紐に預けた。敵の脅威はいまはない。
「ビーコンは発信したが、しばらくは迎えはないだろうな」
 そう言った南波は、なぜか嬉しそうだった。
「さあ姉さん。帰るぞ」
 砲撃の煙はすっかり風に流されていた。
 青空だった。
 北洋州の初夏を印象付けるような、淡いが強い、青。
 そして意外に低いところを、真っ白な雲がゆっくりと流れていた。幾筋か空に書きなぐったような飛行機雲が見えた。
 私は南波にうなずき、そして、一歩、踏み出した。
 南へ続く、道に沿って。
 帰ろう。
 私の場所へ。
 南波と、私の世界へ。





〈終わり〉
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作品名:トモの世界 作家名:能勢恭介