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ドアを開けて、部屋の右の奥に、信親のベッドが置いてある。ドアの正面、ベッドの隣には黒い革張りのソファがあった。信親は、秋桜をソファに座らせると、髪の毛を掻き上げて左耳をあらわにする。
「俺、まだ、もつよ?」
信親を止めるように、自身の手を重ねながら秋桜が言う。
「うん、でも放課後手伝ってもらった仕事も保存するから、ついでにやっちゃおうかと思って。」
何か困る、と信親は訊ねた。
「いや、いいよ。続けて。」
秋桜は、手をどけた。信親が、秋桜の耳からピアスを外し、机の上の箱の中に仕舞う。箱からは細いコードが伸びていて、コンセントに続いていた。同じコンセントから、もう一本、青くて平たいコードが伸びている。信親は、コードをたどって先端を捕まえると、秋桜の耳元まで引っ張ってくる。
秋桜のピアスホールに、細くとがったコードの先を差し込んだ。
秋桜は俯いて、目を閉じた。
信親は秋桜の正面に、しゃがみ込み、秋桜の様子をうかがっている。

きぃん、きぃん

 静かな部屋に、機械音が響く。
 秋桜が顔を上げた。うっすらと、まぶたが開く。
『バックアップを取りますか。』
「はい。」
信親が答える。
『処理完了まで十五秒。』
信親は、秋桜を見つめて、待っている。
『完了しました。データの保存先の容量が、残り五%以下です。』
「了解。」
『充電を開始しますか。』
「はい。」
『充電中はスリープしますか。』
「起きてて。」
『かしこまりました。』

しゅうううううん。

秋桜の目が一度大きく見開かれて、信親をとらえた。
「別に毎日バックアップ取る必要ないだろ。」
「だめだよ。じいちゃんに怒られるのは僕だよ。放課後の作業データ頂戴。」
「はいはい。フラッシュメモリ?」
 信親は、フラッシュメモリを差し出しながら、うん、そう、と答えた。秋桜は右耳の奥から黒いコードを引っ張り出すと、フラッシュメモリにつなぐ。そして再び目を伏せ、俯いた。

きぃん、きぃん。

『保存先を選択してください。』
「生徒会」
『生徒会』
「文化祭」
『文化祭』
「クラス企画」
『クラス企画』
「二年生」
『二年生』
「E組」
『E組というフォルダは存在しません。新規作成しますか。』
「はい。」
『コピーしますか。』
「はい。」
『コピーしました。』
「あきのデータは削除。」
『コピー元のデータを削除します。』
「はい。」
『削除しました。』

秋桜が首を上げる。

「なぁなぁ、のぶ。俺の喋り方いい加減変えようぜ。設定簡単だからよ。機械触りたくないのぶにもわかるようにガイドも出すから。」
「えー。やだ。面倒だし。」
「めんどくないようにするって!機械的で嫌でしょ?」
機械じゃん、とは言わない。
「そうかな。」
「なんでデフォルトのままなんだよー。」
「秘密。」
信親は、フラッシュメモリを抜き取りながら曖昧な返事をする。

 教えてあげてもいいけど、どうせ君にはわかりっこない。

――君が人間じゃないことを、思い知るためだよ。

作品名:Delete 作家名:姫咲希乃