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「というわけで、俺たちのところには明日誘拐犯が来る。」
秋桜は能天気に言った。千春がいてよかった、と秋桜は思っていた。敵か味方か判別はつかないが、城崎の事情に内通している者が外部にいて助かった。
「どういうわけ?」
突拍子もない秋桜の発言に、信親は眉をひそめた。
入口の前が、一番明るかった。入口の前の廊下に並んで、壁にもたれて座っている。
「知り合いに頼んだ。助けてくれって。俺たちに通信手段を残したじいちゃんが悪いんだよ。」
信親は、驚く。
「一体、誰に?監禁されましたなんて言って取り合ってくれる知り合いなんていないよ。」
大丈夫、大丈夫。
秋桜は笑って見せる。
「任せてよ。」
信親は首を横に振った。
「それに、通信したらばれるよ。特に秋桜自身は全部城崎が管理してるんだし。」
「分かってる。でも、それは調べれば、の話で。リアルタイムにじいちゃんが握る情報じゃないだろ。」
そうかな、と信親は呟く。通信手段を残すなんて、怪しい。目の前にエサをたらされているようにも思う。ただ単に、協力者などいるはずもないと高をくくっている可能性もある。実際、秋桜がいなければ、通信手段を残されたところで、信親はここでじっといつになるかもわからない解放の時をおとなしく待っていたに違いない。
信親は、秋桜の態度を理解できないでいた。今まではずっと繁親に従っていて、あんな反抗的な態度をとることもなかったのに。
誘拐の話だってそうだ。繁親を煽ろうとしているのは明らかだった。あからさまに敵視している。まるで、怒っているみたいだ、と思った。秋桜のあんな姿は見たことがない。
まるで、怒っているみたいだった。
「ねぇ、あき、なんか変じゃない」
「なにが?」
「じいちゃんのこと睨み付けたり、怒鳴ったりして」
秋桜は、そうかな、と首を傾げる。
「殴りつけなかったこと、褒めてほしいぐらいだよ」
「ねぇ、あき。」
信親が、秋桜の前にひょっこり顔を出した。聞きたいことがたくさんある、と顔に書いてある。
秋桜は、信親から目線を逸らした。
「ねぇ。」
「なに。」
目を逸らしたまま、できるだけ優しく、答えた。
「あきは、どうして、パソコンなんだろう。」
秋桜はゆっくり、信親に向き直った。
「なに?急に」
「あきはさ、自分のことパソコンだと思ってる?」
秋桜は首を傾げた。
「ごめん、俺は、俺だと思ってるけど」
信親が、俯いた。
「そうだね。」
結局、秋桜がパソコンであることを一番意識しているのは信親自身だ。嫌気がさす。秋桜は、いつだって信親の側で信親が喜ぶように振舞ってくれている。そういうプログラムだ。でも、それが秋桜で。いつもひとりでに、出口のない思考に迷い込む。
信親自身が傷つかなくて済むように。割り切れない気持ちの妥協点を探し続けている。
秋桜は、答えを間違えたのだ、と思った。信親はすっかり元気をなくして何も言わなくなってしまった。
秋桜だって、知りたい。
人間とは、なんなのか。
どうしたら信親を悲しませなくて済むのかを。

作品名:Delete 作家名:姫咲希乃